「この頃……、アスカが恐いんだ、夜になると目が光るんだ、レイが守ってくれるって言うんだけど、レイもたまに涎たらして僕のこと見てるし、ミズホはミズホでアレだし……、僕は……、僕は、どうしたら良いと思う?」
「知るか」
 彼の友人は実にそっけなく言い切った。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'138

「ショート・サーキット」


「冷たいじゃないかぁああああ!」
「ええい離さんかい!」
 縋り付くシンジをげしげしと蹴ったくる、ちなみに場所は校舎屋上、人目に付かない昇降口の裏側だ。
 日陰のためにコンクリが冷たい。
「何やねんお前らは、この間まで喧嘩しとる思たら今度は乳繰り合いか!」
 余りの剣幕にシンジはついついキョトンとした。
「そうだけど」
 わなわなと震え出す。
「……言い切りおったな」
「でもでも!、なんだか今までと違うんだよ!、こう……」
 手をわきわきとする。
「今までだったらさ、何となくお互いに見張ってるって言うか、誰かが何かしようとしてたら目を光らせて怒ってたのに、気にしないんだ」
「はぁ?」
「最初はアスカだったんだ……、寂しかったとかって、キス、されたんだ」
「されたんか」
「されたんだよぉ〜」
「何で泣くねん?」
 トウジは真剣に首を傾げた。
「だってっ、だって舌が動くんだよ!?、うねうねって!」
「アホかい、そんなん……」
 言いかけてトウジは口を塞いだ。
「トウジ?」
「あ、ああ、なんでもない、気にすんな」
「そう?」
「おお、それで?」
「うん……、怒ったレイが、背中流してあげるぅってお風呂に飛び込んで来たんだ」
「はぁ、そりゃまた……、羨ましい話しやなぁ」
「羨ましいんだ?」
「そりゃそやろ、あれは……、ええで」
「何が?」
 キョトンとしたシンジに焦りまくる。
「ななな、なんでもあらへん!、んでどうしたんや!」
「うん、……お風呂から上がったらミズホが裸で人の布団に潜り込んでて」
「ほぉ?」
「流石にそれはアスカ達が何とかしてくれたけど、おかしいんだよ、競い合ってるみたいにさ、どんどんエスカレートしてくんだ、変なんだよ、今までこんなんじゃなかったのに」
 その時、頭上昇降口の屋根の端でキラリと何かが反射した。
「甘いな」
「ケンスケ!?」
 彼の眼鏡だった。
「シンジ!、お前は学習と言う言葉を知らないようだな!」
「え!?」
 腕を組んでの仁王立ちだ。
「好い事を教えてやろう!、同時に二人の女の子が一人の少年を好きになったとする、この場合、決して気を抜くことは出来ない、何故なら、一方が目を離した隙に片方が熱烈なアプローチの果てに陥落してしまう可能性が有るからだ!」
 妙に力を入れて激しく語る。
「だけどここにもう一人加わったとしよう!、誰か一人が隙を見せても、その隙は意味を生さない、何故ならもう一人が、抜け駆けを防止するからだ!」
 ついつい勢いに引き込まれてしまう。
「そ、それで?」
「うむ!、勝利を掴むためには必要なのは、最も己に有利なバトルフィールドだ、分かるか!」
「ははぁ」
 トウジが答えた。
「つまりは、他の二人の足引っ張って、邪魔もんを消さなあかんちゅうこっちゃな?」
「そう!、どの様な必勝の策も時と場所と雰囲気の三角関数が絶妙な公式を完成させてこそ意味を為す!、それはサイン、コサイン、タンジェントにも匹敵する重要公式なのだ!」
「……ちょっと違うんじゃ?」
「とーもかく!、今までなら確かにそれでも良かっただろう、彼女達には『若さ』があった、時を掛ける余裕があった!、のんびりと構えて時折訪れる幸運と言う名のタイミングを見計らうだけのゆとりがあった、しっかーし!、今はもう、もはやそれも埒が明かない状況に在る、ふっ、認めたくない物だな、歳老いたゆえの焦りと言う物は」
「はぁ……」
「ここで彼女達は気が付いたのだ、そう、やった者勝ちであると!」
「や、やるって……」
「殺る、から、ヤる、へ、ライバルとの闘争に明け暮れた彼女達は、その空しさに疲れ果て、今や本来、己の占有権を主張し合う争いの元であったはずのオアシスへ、我先に飛び込む選択肢を選んだのだ!、そう、渇いた心は潤いを貪欲に過激に求めようとする!、今や彼女達は碇シンジと言う魂のオアシスを自らの限界に到るまで飲み尽くそうとしている!、そう!、独り占めが出来ぬのならば、最も多く果実をむしゃぶり尽くしてやろうとしているのだ!」
「そんな!」
「シンジよ、どうする?、このままではお前の未来はまさにミイラ!、しゃぶり尽くされ吸い尽くされて、枯れて老いて行くだろう!」
「何が言いたいんや?」
「助けが欲しいか?、助けが欲しいならくれてやろう!、さあこの隠しカメラとマイクを仕掛けるのだ!、俺がお前に作戦を授けて……」
 ドゲシ
「あ〜〜〜!」
「なぁ〜に下らないこと言ってんのよ!」
「アスカ!」
 と叫んだ直後に、校舎の下に落下していったケンスケの『ぐちゃ』っと言ういやぁな音が聞こえた。
「シンジぃ、今日は一緒にお昼食べるって言ってたの、忘れてたわねぇ?」
「わ、忘れてたわけじゃ」
 首をすくめてびくびくと下がる姿はまるで子犬だ。
「あ、そう」
 アスカは何故だが、やけにあっさりと怒りを消した……、と思ったら甘かった。
「じゃあ覚えててすっぽかしたってわけね!」
「ひぃ!」
「ま、惣流、そう怒らんと、落ち着けや」
「何よ!、邪魔しようっての!?」
「邪魔はせん、そやけどなぁ」
「何よ?」
「見えとるで?」
「へ?」
「見えとる、ちゅうとんねん、それ、勝負パンツやろ?」
 アスカはかーっと赤くなった、昇降口の屋根の上から見下ろしていたのだ、そりゃスカートの中など丸見えになるはずである、それにしてもだ。
「なんであんたがそんなこと知ってんのよ!」
「……ヒカリに教えてもろた」
「ヒカリぃ……」
 アスカは内股気味にスカートを押さえて後ずさった。
 もちろん、シンジはその隙に逃走に成功していた。






「あんた達ってぇ」
 と言ったのはマナだった。
「雨降って地面が固まる前に飛び出してはしゃぎ回って目茶苦茶にして周りにも飛び散らせて掃除もしないで帰っちゃうタイプよね」
 聞いているのはレイだった。
「それ皮肉?」
「に聞こえない?」
「つーんだ、だったらどっか行けばぁ?」
「やだ」
 憎々しげに見やると、マナは頭の後ろで手を組んでニヤリと笑っていた。
「どうして、着いて来るの?」
「そんなの決まってるじゃない?」
 ふふんと余裕だ。
「レイ達からの逃亡生活に疲れたシンちゃんに優しくしてあげるためよ」
「シンちゃんが逃げてるのはアスカからよ!」
「同じことだって」
 不敵に笑みを深めるマナだ。
「頑張っていがみ合ってね?、気疲れが溜まれば溜まるほどちょっとした優しさが多大な効果を生んでくれるから☆」
 唇を噛む。
「漁夫の利ってこと?」
「そ〜よぉん、もう嫌だよ、こんな生活、あたしが慰めてあげるぅ、ああ、やっぱりマナが一番だ、なぁんつってね?、どう?」
 ぷいっとレイはそっぽを向いた。
「シンちゃん、そんなに安っぽくないもん」
「さて、それはどうかなぁ?」
 にやにやだ。
「認めたくないけど、アスカってやっぱりスタイル良いよね?、奇麗だし」
「それが?」
「レイって別の意味で奇麗でスタイリッシュよね?、ミズホは?、可愛い系で侮り難い体してるし」
「……なんかヤラシイ、それって」
「そ!、まさにそこ、ねぇ?、そこまで揃っててどうして誰一人手も付けようとしないわけ?、シンジ君は」
「……何が言いたいの?」
「ううん、何かが足りてないんじゃないかと思って☆」
「愛とか言いたいの?」
「違う違う、多分、三人揃って飢えてるからじゃないかと」
 ぎくりとするレイだ。
「飢え?」
「うん、なぁんか目が血走ってるし、そりゃ普通恐がるよねぇ?」
 意地悪く横から顔を覗き込む。
「鼻息荒いし」
「ふんだ!」
「ね?、やっぱりシンジ君が求めてるのって、潤いのある生活なんじゃないかなぁって思うわけよ、疲れ果てた心も体も休めてあげる、癒し系マナちゃん?」
 レイは冷たい目で倒錯した世界に走る彼女を見やった、が、結局同じ穴のムジナだと言う言葉だけは呑み込んだ。
 認めるのが嫌だったからだ、仲間だと。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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