碇家の子供達は皆パワフルで疲れを知らない。
 朝一番から夜就寝前、ではなくて、布団に潜ってからも暫くうるさい。
 ちなみに今日はミズホの部屋がうるさかった。
「むーーーーーー!」
 シンジの背中を流そうと、たすき掛けして脱衣所で待ち伏せていた所を捕獲、そのままアスカとレイの手によって拘束……、いや、す巻きにされて転がされていた。
「むーむーむー!」
 不幸なのは忘れられてしまったことと、この程度の呻きで反応してくれる繊細な心の持ち主が実に少ない事だろう。
「むぅ〜〜〜」
 ちょっと悲しく語尾が揺れる。
「む」
 す巻きのために使われているのは掛け布団だ、そのてっぺんからぴょこんと出ていた尻尾髪がさらにぴょこんと一つ動いた。
「むぅうううう」
 どうやら電波を飛ばして、シンジに受信してもらうつもりらしい。
 そんなことを明け方までやっているものだから、寝坊してしまうことになるのだが……
 ちなみに、ミズホを拘束すると朝食からお弁当に連動して、その日は夕方までひもじい思いをする事になる。
 大体が効果の無いお仕置きに一体どれほどの意味があるのか?、いや、これはもうお仕置きなどではないのだ。
 ただ単に、うるさいのと面倒なので縛り上げただけである。
「むぅ〜〜〜……」
 ちょっと声が弱くなって来た、体力が尽きて来たのではなく、そろそろ眠くなって来たようだ。
「すぴ〜〜〜……」
 諦めたらしい、ぱたんと尻尾髪も落ちて寝そべった。
 アスカ、レイと同様に、ミズホもこの待遇に、十分順応しているらしい。
 そんな二階と違って、ロフトである。
 税金対策のために部屋では無く物置として建築許可を取ってあると、非常に後ろ暗い噂のある最上階だった。
 シンジとカヲルは並んで、同じように頭の下に腕を組んで敷いていた。
「なんだか久しぶりだね」
「こうして寝るのが?」
「うん」
 シンジの顔には喜びも照れも無い。
 だからと言って嫌がっているわけでも無く、落ち着いた……、例えるなら『普通』の顔をしていた。
「それで……、答えは見つかったの?」
「答えかい?」
「うん……、悩んでたんでしょ?、それが何かは、僕には分からないけど」
「そうだね……」
 カヲルは苦笑して答えた。
「見付けたと言えば見付けたのかもしれない、薫に言われたよ、僕は神様だってね」
「神様?」
「でも神様と悪魔を、シンジ君は見分けられるかい?」
「え?」
「僕達の力は使い様でどちらとも受け取れる物だよ……、彼女は信じてくれている、けどその目の前で人を傷つけたらどうだろう?、……僕はそれが恐かったのかもしれないね」
「カヲル君……」
「どこかでそれに気が付いていたのかもしれない、僕はね、守りたかったんだ」
 横向くと、同じようにカヲルも首を向けていた。
 微笑んで。
「君達を守りたかった……、守れると思っていた、そのためなら傷ついても良い、人を傷つける事も厭わない、そう思っていたよ」
「でも、違ったんだね」
 にこりとするカヲルだ。
「人を傷つけて、それで罵られる事になったとしても、どこかで信じてもらえると思っていたんだろうね、でももっと深い所では、それを認めてもらえないことを恐れている自分が居た、そんな自分が僕の口を軽くさせていた」
「口を、軽く?」
「理解を得ようとしてね、誰かには知っていてもらいたいと話していたんだよ、レイに……、アスカちゃんに、ミヤに」
 その名前の羅列にどういう基準があるのか分からなかったが、シンジは取り敢えず納得しておいた。
「そうなんだ」
「けれど……、だからこそ大事な物を学んだよ、間違っていたと、気が付いたからね」
「何を?」
「誰かの様に、君達を守れるようになりたい、誰かの代わりに、君達を守っていきたいと思う、でも同じ物は僕には無いからね、同じようには出来ないさ」
 その当たり前過ぎる理屈に、自分を笑っているのだろうか?
 再び天井を見上げた。
「そんな単純な事に気が付くまでに、随分と時間が掛かったよ、既に僕達は守られている、でも間違っている部分もある、既にここにあるんだから、真似じゃなくて、もっとよりよく出来るはずだ、変えていけるはずだ、違うやり方を試してもいい、僕はね……、それをやるべきだと思うんだよ」
「これから?」
「そうだね……、だから、僕は葛城先生の結婚式に携わりたいと思ったのさ、そこに幸せがあるのなら、見ておいて損は無いだろう?」
「そうだね」
「出産、それに育児、そして育った子はまた僕達のように日常を重ねていく……、いや、僕達よりもずっと普通に育っていくんだろうね」
「カヲル君?」
「それは夢だよ……、一つの夢だ、僕達の次の世代も、そんな風に暮らしていけるなら……、いや」
 思い直す。
「先生のお子さんが極当たり前のように友達として過ごしてくれる、そんな風な世界を作って見たいと思う、そのために理想像を見ておきたいって思っているよ」
 シンジはカヲルの横顔に見とれてしまった。
「凄いね……、カヲル君は」
「そうかい?」
「うん……、僕には、そんな事は思い付かないや」
 ふふっと、小さく微笑する。
「シンジ君はそれで良いんだよ」
「そうかな?」
「シンジ君が見るべきは先生の幸せな姿さ、そしてその姿を誰に与えてあげるのか、想像して見るといいよ、赤ん坊を抱く先生の姿を、そしてそれを見て羨ましいと感じた時、誰に対して、求めるかをね」






 カヲルとシンジが少しだけこれからについて真面目に語り合っていた頃。
 北海道ではゲンドウがとある人物と接触していた。
「よくここまで辿り着けたな」
「あら?、それについては頼もしい方が居ますから」
 とある料亭である、そのカウンターの奥隅。
 ゲンドウは威厳のある声音を使いながらも、腰が引けるのを抑え切れずにいた。
「なんのつもりだね、赤木君」
「あら?、ナオコで構いませんのよ?、ゲンドウさん」
 徴発的に椅子を寄せてしな垂れかかるのだが、色気を通り越して怪しげな雰囲気を放っていることに気が付いているのだろうか?
 もちろんゲンドウは感じていた、しかも『狩られる』と言うかなりヤバめのものを感じていた。
「あの赤ん坊、アレクの名で送り付けて来たのは君か」
「ええ、他に当てがありませんでしたから」
 つまらない、とナオコは距離を取って、お銚子を傾けた。
「人類補完計画」
 実にぽつりと呟く。
「計画の破綻をご存じですか?」
「何?」
「やはりまだご存じなかったのね」
 熱燗の追加を頼むナオコだ。
「神様の方程式が完成されてしまいましたわ」
「なんだと?」
「そう、式は完成されました、ですから、答えは導き出されます、発動し、誰の手にもよらず、具現化します」
「そうか……」
 ゲンドウは目を閉じて低く唸った。
「それで」
「はい、あの子は答えを為すための、重要な数字の一つですから」
 ゲンドウはそれ以上聞かずに席を立った。
「すまない」
 その言葉に薄く笑うナオコだ。
「本当はちっともそんなこと思ってらっしゃらないくせに」
 からかうように横目をくれる。
 ウソつき。
 声には出さずに、唇だけをはっきりと動かす。
 ゲンドウはそれを見てから、踵を返して立ち去った。
 後に残され、再びナオコはお銚子を傾ける。
「若い子の方がいいのかしらねぇ」
 そんな事を言って溜め息を吐く、それが誰のことを差しているのか。
 それはその呟きを耳にした店の主人などには、決して分からない問題だった。



続く







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