「午後六時を回りまして、こちら第三新東京市立第三高等学校では、今も披露宴が続けられている模様です」
 学校は事件以降、大挙して押し寄せた記者団によって取り囲まれていた。
 立ち入りは許していない、これは警察も同様の扱いを受けて難儀していた、事情聴取などを行いたい所なのだが、どこからかの圧力により、強攻策も打てないでいた。
 妙な感じであった。
「で、式を挙げてるのは?」
「中学とこの高校の校長だそうですが」
「公共施設の貸し出しねぇ、そのテストケースの初回だからってのは分かるが」
「無事に終わらせたいんでしょう、幸い怪我人もなく騒ぎも無事に収まりましたから」
 憶測は憶測を生んで尾鰭まで付く、揚げ句にはいらぬ詮索も呼び込んで、ただ者ではないのだろうとの話を作る。
 もちろんただ者ではない、裏では有名な人物であるし、この日、彼らの警護のために潜んでいる人間も、その筋に置いては十分名前だけで通じる凄腕達が勢揃いしていた。
「帰った人間も多いがな」
 冬月の揶揄をゲンドウは鼻で笑った。
「しょせんはダミーだよ、真に彼らを心から祝う者は別に居る」
「呼んだのはお前だろうが」
 人数比率で割っていけば、一見して加持よりもミサトの招待客の方が多いように見えるのは、それだけ表の世界に接点が多いからだろう。
 今日ここに集っている人間全てで数を割れば、実はそう大差は無い。
 さて。
 それだけの人数を集めたのは、もちろん裏の仕事を……、警護を行わせるためだった。
 通常の警備員程度では話しにもならない敵が多過ぎる一団だけに、守りがいもある。
 しかしだ。
 それだけの人手を狩り集めても、役立てない相手と言うのは居た。
 例えば、彼らだ。
『……』
 茶色、苔色、それに白色のローブを着込み、顔も被り物を深く被って隠している。
 そんな目立つ姿であるというのに、誰も一向に気が付かない。
 気配だけでなく、存在そのものも断っているのだろう、そう、彼らは生きていないのかも知れない。
 シンジが直感的に人間として知覚しなかったように。
 それぞれはそれぞれに、まるで意志が通じているかの様に頷き合う事も無く動き始めた。
 お祭りを楽しむ、人ごみの中に紛れるように。
 誰かを探して。


GenesisQ'146
「楽園の魔女たち」


「よくこんな事思い付きますね……」
 シンジは恨みがましい目でミサトを見やった。
「一度シンジ君の演奏を生で聞いて見たかったの、悪い?」
「聞いたことありませんでしたっけ?」
「久しぶりって事でねぇ」
 笑って護魔化すミサトである。
 さらし者にしようというのは明白だった。
 ここは舞台の裏手である、セッティングしたのが誰なのかは分からないが、シンジはギターを持たされていた。
 初めて持たされたギターなのだが、良いものであるのはわかった、光るような藍色のベースに、白い縞模様が踊っている。
 ギターはシンジとカヲル、ベースはレイ、キーボードアスカ、ドラムミズホと、構成までもがいつもと違う。
「ミズホ……、ドラムなんて叩けたんだ」
「違う違う」
「うう、アスカさんに無理矢理ぃ……」
「うっさいわねぇ」
「……アスカちゃんだけ、慣れた楽器か」
「なによ!」
「ずるいですぅ」
「そうよねぇ」
 ちっと舌打ちするアスカである。
「ああ、僕とレイは、入れ代わる事になるからね」
「カヲル?」
「ヴォーカルは僕達二人で担当する、ギターは間奏で使うだけだから」
「半分飾り?」
「そうなるね」
「シンちゃんは歌わないんだ?」
「初心に返るって決めたんだ」
「ふうん……」
「どっちでもいいけど、音合わせも出来ないんだから気をつけてよね」
「だったら練習ぐらいさせてくれれば良かったのに」
「あんたバカァ?、先に言ってたら嫌がって弾かなかったでしょ?、どうせ」
 アスカの言葉に、そうかもなぁと溜め息を吐く。
 今日までの忙しさは正に殺人的だった。
 これ以上の負担を負わされて、堪えられたかどうかはかなり微妙だ。
「じゃあ席に戻って楽しみにしてるから」
「はい」
「頑張ってね」
 微笑みを残してミサト、退場。
「先生って……」
「なによ?」
「元気だよね……」
「ほんと、お腹に赤ちゃんが居るのにね」
「いいおばさんになるんじゃない?、きっと」
 もうおばさんね、と言わなかったのは、地獄耳を恐れたからかも知れなかった。




甘えて はしゃいで 怒っても

笑っているだけの 君だから

ぽかぽかの中に溶けちゃって


アイシテル?


それよりほら! ここに来て

お陽様と風が待ってるよ?


笑ってるだけで良いのにね

足りないのは愛とかじゃなくて

ただそこに居るだけの


ほらほらお日様が笑ってる!




 シンジの軽い調子のギターに合わせて、レイがそれ以上に楽しげな声を弾ませて歌い上げる。
「変わったわね、あの子達」
「そうか?」
「ええ……、なんだか凄く……」
 何だろうか?
 言葉に出来ないミサトに、加持は苦笑気味に微笑んだ。
「無理に言葉にすることは無いさ」
「そうね……」
 もどかしいのだが、ミサトは飲み込んだ。
 どうせ陳腐になると思ったからだ。
「変わらない方が変だもんね」
「ああ、それに、俺達が見てない所でも色々とあるんだろうさ」
「なに?」
「役割も変わってくって事だな」
「役割?」
 加持はちょっとだけ声を潜めた。
「もう歳って事だよ、ぎっ!?」
 ぐーりぐーりと足を踏まれた。
「何するんだよ!」
「からかうからでしょうが!」
「違うって……、もう俺達の歳じゃ荒事には向かないって事だよ」
「そう?」
「体力の維持なんていつまでも続かないさ、流石にもうこれ以上は食い止められないな、落ちる一方だよ」
「……何が言いたいの?」
「だから、役割さ……、これからはデスクワークってことだな」
「……碇さん達みたいに?」
「何だって良いさ、ただそうするならそうで」
「わたし達の代わりが必要になるって言うこと?」
「だな、それも、職業意識を持ち出さないような」
「職業意識?」
「ああ……」
 苦笑気味に言う、半分は冗談なのだとあからさまにして。
「極限状態に置かれると恋に落ち易いって言うのがあるだろ?、守ってやらなくちゃならないって使命感と、守ってもらわなくちゃならないって依存心が利益の合致を見るんだな、だから、それから開放されると後が続かない」
「それで?」
「あの子達は立場上そう言う相手に遭遇し易いって事だよ、誰も彼もが俺達みたいに……、罪悪感で動くって訳じゃない、なら多少の見返りは求めるだろうさ、卑しい話しだけどな」
「見返り、か……、応えない人間には不満を感じる?」
「ああ、事情を知ってる奴ってのは限られてるからな……、あの子達の連帯感も、少しはその辺から生まれてるんだろうさ」
「だから、変わってく訳ね」
「それもあるけど、それだけじゃないって割り切りも出来てるんだろ、互いの距離やバランスを取り合った上で、お互いに必要な役割を見定めようとしてる、与え合おうとしてる、それが違いに見えるんだろうさ」
「大人になったって事か……」
「まだ子供だよ、大人になるためには、失恋を経験しないとな?」
「不吉な事を言うんじゃないの!」
 冗談で言った加持であったが、またもミサトに足の甲を踏み抜かれて、激痛に悶えるはめに陥った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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