長い間考えていた。
 僕達は何のために生まれて来たのか。
 人は僅か数年で人格を得、十年を掛けて先を見据え、そして残りの人生で熟成していく。
 考えたことはない?
 人間の数千年の歴史を。
 一人の人が悟るのに五十年もいらないというのに、どうして人類全体となるとまったく進歩していないのか?
 この星には五十億からの歴史がある。
 なのに人類種は君達だけだ。
 生物はね、たった十度、あるいは一気圧違っただけでこの星に産まれ出ることは無かったんだよ。
 それ程の奇跡だった、でもね?、かつて地球はもう一つ内側の軌道にあったんだ。
 ならその仮説はおかしいんじゃないかな?
 内側の軌道にある星、金星の位置にあったんだから、今の気圧も、気温も得られたはずがないんだよ。
 なら、もしそれを手に入れられた星があったとしたら?
 それは火星だね。
 五十億年の時があったなら、君達以上に精神的に成長していた人類種が居てもおかしくはない。
 この船はそう言った人達が逃げ出すために使った物だよ。
 かつて火星があった軌道にシフトした地球。
 そして現在の火星の軌道に外されてしまって、住めなくなってしまい逃げ出した人類。
 しかし彼らはこの星にこれから生まれる、あるいは生育していく命に触れる事を禁忌としたんだ、だから地下に、あるいは海の下に、人が自分達と分かり合えるほどに生育する間隠れ住むことにしたんだよ。
 もっとも滅んでしまったけどね?
 もし会えることがあるなら、ここにまで辿り着く事が出来たなら。
 そこまで彼らが強く育ってくれたなら。
 友達として、通じ合えると信じていたんだ。
 信じていたんだよ。
 でも間に合わなかった。
 いいや、間に合いそうに無かった。
 だから時々、人間の間に子供を混ぜたんだ。
 君達にそっくりの子供をね?
 遺伝子情報によってどれだけ姿を変えていても、魂は魂だよ。
 彼らは君達ほど物理的な誓約に囚われてはいなかったんだろうね、心あるものを全て『ヒト』として捉えていたのさ、だから『カタチ』なんてどうでも良かったんだと思う。
 ただ、心を通わせる方法は必要だった。
 たったそれだけの力のはずだった。
 君達が触れたのが、その内の一つなのかどうかは分からない。
 違う物なのかもしれない、正にそれそのものなのかもしれない。
 ただ一つ言える事は。
 本質において、同じなのだと言うことさ。
 ……彼は何も無い場所に腰掛けて、少年にゆっくりと説いていった。
「君に内包されている力なんて些細な物さ」
「分かり合うための、力?」
「そう」
 彼はもう、思念を用いてはいなかった。
「意志を具現化し、互いの疎通のために用いる、イメージに頼るランゲージ、食事をしよう、スプーンが無い、でも言葉が通じない、困った、どうしよう、スプーンをイメージすれば簡単だ、そんな力が特化し過ぎて、空間に現象を描き出したり、干渉するほどのエネルギーになった、それが君達の持つ」
「エヴァンゲリオン……」
「そう、だから僕はそう名乗るよ、エヴァンゲリオンと」


GenesisQ'148
「鋼鉄のガールフレンド」


「あれ?」
 夕焼けの映える河原にぽつんと立っていた。
 土手の芝は短く、その上の道路に走る車は見えない。
 足元は人が歩くからか砂地が見えていた、傍ら、石垣の少し下を水が流れている。
 全てがオレンジ色だった。
「え、っと……」
 風が吹く、髪が流れた、ばさばさと暴れて前に来る、夕焼け同様に金色に染まっていた。
「あ……」
 アスカは前を歩く二人に気が付いた。
 記憶が勝手に構成されていく、そう、今日は久しぶりに一緒に帰ろうと思っていた、ところがちょっと友達に引っ掛かっている内に奴は先に帰ってしまった。
 ちくりと胸が傷んだ、なんでもない光景、幼馴染がただ途中で一緒になったのだろう相手と歩いている。
 それだけの景色。
(夢、か)
 ぼんやりと思う、シンジを意識したのは青い髪の少女がやって来てからだし、それまでは否定が七分に肯定三分と言った具合だったはずで、こんなにも胸が苦しくなるようになったのは、少年の視界に姉妹ほどに仲のいい彼女が写るようになってからだ。
 だから、これは夢なのだ。
 あの頃はこんなにも嫉妬を感じたりはしなかったから。
「でもまさか、あたし以外にシンジを好きになる奴が出るなんてねぇ」
 暫くはその夢を楽しむことにした。
「中学ん時はモテるってより、笑って和める奴って雰囲気だったし」
 だから三馬鹿の一人だった。
「鈍いと思ってたし、生意気だって理屈にもなんない護魔化しをかけちゃってさ、そうやって思い込んで、油断して、気が付いたらあいつを好きって奴が一杯居て、あいつも『恋』とか『好き』とか言うようになって」
 何よりも。
「あたし以外に、あいつの良い所に気がつく奴がこんなに居たなんて」
 並んで歩く二人を眺めながら、追いつかないように注意して歩いた。
 何を話しているのだろうか?、笑顔で。
 −ツカレタ?−
「ちょっとね」
 誰に対する返事だったのか?
「告白に勇気がいるなんて嘘よ、どう考えたってあれはエネルギーの方が必要だわ」
 −ドウシテ?−
「じっと見てるだけじゃ気が付いてもらえないから、だからどう言おうか、どんな時に言おうか?、どうやって伝えようかって必死になって、タイミングを探して、逃さないように注意して、気を配って……、いつになるか分からない物をひたすら堪えて、今かな、もうちょっと良い時が来るかなって踏み切ろうとしては立ち止まって、ずっとそうやって気を張ってなきゃなんないんだもん」
 つい笑みを浮かべてしまった。
 −ドウシタノ?−
「あたしはね、失敗しちゃったの……、先に順番、取られちゃった」
 最大のライバルに。
「それまで溜め込んでた分、多分暴発しちゃったのね、押し付けるみたいに気持ち叩きつけて、それで今が在るの」
 −コウカイ?−
「違う、絶対、やり方も、方法もまずかったし、夢とか想像みたいに上手くは行ってないけど、結果は上々だもの、悪くは無いわ」
 −ヨカッタワネ−
「うん、でも」
 紫色の空を見上げる。
「あたしに話しかけてるあんたは誰?」


「そうですか」
 クルス浩一はネルフ本部に足を運んでいた。
「既に一部では救済艦への移住作業が始まっている、以後千年は凍結だな」
 惜し気もなく資料を手渡す冬月だ。
「早々に我々を見捨てるつもりだよ」
「一つの艦に収容出来る人数は?」
「数万人だ」
 ゲンドウ。
「彼らの選別によって選ばれた十五歳未満の少年ばかりだよ」
「最終的には十四万四千人が収容される事になる」
「それが彼らの持つ『聖典』の教義ですか」
「裏死海文書と言う」
 重々しく言う。
「つまらん予言詩だ」
「その通りですね」
 頷いたのはカヲルであった。
「聖書が『翻案』……、翻訳ではありません、話を面白くするために案を練り直し、エピソードを付け加えること、これをくり返されたがために、歴史的事実から遠くかけ離れた物になってしまっていることは事実です、裏死海文書と言えども」
「どうかな?」
 浩一。
「あれは超能力者や予言者を掻き集めて得られた未来史なんだ、そう外れている訳でもない、その上近代まで埋もれたままだった、大半が損失しているとは言っても、原文に近いよ」
「……努力をするのが嫌なら諦めればいい」
 二人を諌めるゲンドウだ。
「どの様に努力したところで未来が確定していると言うのなら、投げ出した結果が記載されているのだろう、先の展望が分からぬからと逃げ出す臆病者に用は無い」
「辛辣ですね……」
「先が見えていようといまいと、わたしはわたしの個人的感情に基づいた納得のいく道を行くまでだ、経過はともあれ、結果は後々に判断されよう」
「ですが」
 浩一は呻いた。
「地球制止作戦、本当に?」
「わたしは提案する」
「人類が滅びても構わないと?」
「結果の伴わぬ経過に用はない、しかし経過を恐れて最悪の結果を迎えるのは愚か者のする事だ」
「わたしが説明しよう」
 冬月はさらなる資料を提示した。
「エクセリオンは超古代文明の遺産として発掘された船だ、君と同じくね」
 浩一を指す。
「だが君ほど『新しい』文明の物では無い事が分かっている、その本質が宇宙航行用の艦である事もだ、だが我々にはその全てを解明するだけの時間が与えられなかった、一部は転用し、技術革新としてゼーレの著作権収入を産み出したがね」
「重力震すら堪えうる船体装甲を生み出すために宇宙基地が……、月基地が建設されたが、結局の所は無駄になったな」
 鼻で笑った。
「そうだ、エクセリオン級は現在我々が手にした全ての科学力を結集し、『方舟』として建造された、その外装はエクセリオンから『剥がした』装甲板が使用されている、他に幾つかの機械もね」
「それでも、現在の科学力を上回る?」
「解明は出来ずとも流用は出来ると言う事だね」
「エヴァと同じか……」
「流石に重力圏の脱出能力は失ったが、それでも、例え地中に埋もれたとしても、人が人として営みを続けていくには十分な機能が備えられているよ」
「では何故『委員会』はシンジ君を狙おうとしたのですか?」
 それこそがここを訪ねた理由であった。
「正確にはエヴァ保有者だ」
「そう、地中に埋もれた彼らが、あるいは他の『方舟』の子らと数千年後に出会った時、果たして意志疎通は可能だろうか?、言葉は?、あるいは地上の環境に堪えうるだろうか?」
「そのためのエヴァか……」
「十四万四千人の内の数人でかまわないのだよ」
 ちらりと碇ゲンドウを見やる。
「強制的な定着作業を行うよりも、『自然交配』の結果産まれ出た子供の方が安定するのは『確認』されているからね」
「じゃあ、僕達はなんのために?」
「それが分からなかったから、あるいは」
「自らの手にするためだ」
「碇……」
「半分は世界のためであろう、だが残りは生に執着する醜さ故だ」
「まあ、多少の救いにはなりますね、仲間の犠牲が、ただの欲望のためだけじゃなかったなら……」
「御子ですか、シンジ君は」
「その通りだ」
「アスカちゃんも?」
「その通りだ、だからこそ奴等の手に渡すわけにはいかん」
「そのための準備ですか」
「そうだ、もし奴等の手に渡っているのなら、取り戻すためにはその場所を確かめねばならん、あらゆる世界エネルギーを停止させるこの作戦こそが、『敵』の潜む場所を確かめる唯一の方法なのだからな」
 超古代文明の遺産だけが、この作戦にも堪えて存在を続けるはずだからこそ。
 その反応を探る事で、位置確定が可能になるのだ。
 だがそんなことよりも、浩一とカヲル、それに冬月は顔を強ばらせていた。
 敵、と、碇ゲンドウが明確に離反を口にしたからである。
「まずはジャイアントシェイクに備える、何がどうであれ、この危機が過ぎ去るまでは奴等の手中にある方が安全だからな」
 ただ、彼らは幾つかの点で誤解をしていた。
 シンジが本当は何処に居るのか、その点において。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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