「何故、急に引いたの?」
分からないことは分からないままだった。
そして次に襲いかかって来た謎の思考波。
深海域に居るカスミ達の船には、それを知る術は無い、そう。
彼女達は地上がどうなっているかも知らないままに先を進んでいた。
今や地上にはナノマシンの雪が降り積もっていた。
生物は機械化し、機械はその活動を止められていた。
核施設から、銃火器の発火装置に至るまで、だ。
やがては海の底にまでその手は伸びてくるのだろうが、今はまだ静かなものである。
「着底します」
静かな震動、ここは日本海溝の底である。
舞い上がったプランクトンの死骸が、吹雪を真似て視界を埋めた。
『その者、青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし』
通信パネルにジュンイチからの言葉が表示される。
「例の古文の一文?」
ただ思い出しただけなのかもしれない。
ブロック艦の内部、イサナは感激に言葉を失っていた。
青く色付けられたフォログラフィ、人形のライトによって金色に照らされている深海の草原。
それの中に足を沈めて感激するイサナ。
その様子を見てカスミは嘆息をした。
「予言書じゃないんだから」
過去の事象を記したと呼ばれている裏死海文書。
だが一説では予言書でもあると言う。
(真実は問題じゃないわ)
「イサナ、目標地点をサーチして」
『わかった』
だがサーチと言えば聞こえは良いが、実際には。
『で〜わっと!』
人形を使っての、プランクトンの死骸の掘り返し作業であった。
総人口の何割が失われたのだろうか?
火災や、化学事故の類までも雪はその下に封じ込めていった。
テンマは壁で己の身を守りながら、そんな街の様子を眺めていた。
エンパイヤステートビルから眺めた世界は、灰が積ったようにくすぶっていた。
時折空を何かが羽ばたいて飛んで行く。
鳥にしては大きい、使徒化した人間だった。
「確かに……」
ちりちりと壁に接触したDG細胞が火花を散らして消えて行く。
この結果、これから起こる災厄による被害は限りなく最少に抑えられるだろう。
だが。
(最悪の可能性が払拭されたわけでも無い)
本来、この力は二千年の時を掛けて大地を再活性化するための力であったはずである、なら、この悪夢のような世界もその経過に過ぎない筈なのだ。
となると……、この段階で全てを判断することは出来ない。
「何を考えている?」
少なくとも、無駄な争いだけは無くなった。
「歌、か……」
そしてテンマは空を見上げる。
ラ、ラ……、と。
それは天使達の羽ばたきの音だったのかもしれない。
●
「早過ぎる」
老人が言った。
「まさかかような形で反旗を翻そうとはな」
唸る声。
「汚染状況は」
「ブルーノアとグリーンノアがやられた」
「後は奴の行動次第だ」
「レッドノアのみが起動に成功し、潜航待機しているよ」
ふうとようやく、安堵の息が漏らされた。
「冬眠船でもある方舟だが、対DG細胞シールドは起動後のエネルギー供給が必要だからね」
「しかし」
「不可解過ぎる」
うむと同意。
「何故こうも呼応するのか?」
彼らはシンジの存在を知らない。
そしてそれは、彼らにも言える事だった。
「船体表面の温度が上がっています」
ディバスナーガはDG細胞に汚染された海を進んでいた。
「海流の影響で船体がよじれて行きます!」
「緊急浮上だ」
「はい!」
先端を突き出すようにして海面に姿を見せるディバスナーガ。
その正面に竜巻、これは躱しようがないように思われた、しかしだ。
ザァ……
突然竜巻は払われた。
さらに空も晴れ渡る。
「……なんてこと」
しかしミサトを筆頭に全員は息を呑んだ、それは……
ドクンドクンと。
巨大な顔に繋がる上半身だけの機械巨人、そのさらに口の部分に、浩一とおぼしき少年が組み込まれていたからだった。
「クルス君……」
呆然とした声に振り返って加持は叫んだ。
「駄目だ、渚君!」
「でも彼があそこに居るんですよ?」
「だが君が行った所で」
「行きます」
「渚君!」
「彼を止められるのは、僕だけですから」
振り返り、出て行こうとしてカヲルは硬直した。
「アスカちゃん……」
ちらりとカヲルを見、そしてモニターに映っている浩一を見て、アスカは道を譲った。
その顔には、なんら感情が浮いていない。
「ええっと、ええっと」
ミズホだけがただ見比べて焦っている。
「あ、あの、カヲルさん、どちらに?」
「……彼を止めて来るよ」
「はぁ……」
「結局、シンジ君の事は話してくれないんだね」
ようやく、アスカの唇に感情が浮かんだ。
それは軽蔑だ。
「じゃあ、教えてあげる……」
「なんだい?」
「あいつがああしているのはね、シンジがそう、願ったからよ」
「……なんだって?」
呆然としたカヲル、いや、一同に対して、アスカは重ねた。
「あんた達が馬鹿な真似するから、シンジが余計な責任、背負っちゃったって言ったのよ」
その言葉の意味を正確に測ることは出来ないだろう。
アスカ自身にもわかっていないのかもしれない、異常な姿を曝す浩一を見つめても、アスカはそれ以上の感情を沸き上がらせる事がなかったのだから。
そして、海面下。
「凄い……、地底人の国は本当にあったんだ」
地球のひび割れの底の底には、透明な卵の外殻が存在し、その下の世界を守っていた。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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