「大変です!、第三ハッチが開いています!!」
「何だと!?」
 加持はマユミからの報告にはっとした。
「霧島さんは!?」
 主モニターにその顔が大写しになる。
「霧島!」
 マナは敬称略で呼んだ加持に、ちらりと視線を送ってポツリと答えた。
『出ます』
「駄目だ!、その機体はまだ未完成なんだぞ!」
『でも今使わなければ無駄になります』
 くう、と唸る加持だ。
 その間にもまるで体操服のようなパイロットスーツを着込んだマナは、何かの操作機械のセッティングを進行していった。
 両足を突っ込むブーツ状の筒、そして体を支えるのであろう腰に回るアーム、腕部をすっぽりと包むメインコントローラー。
 そして頭に被せられるVRヘルメット。
「やらせてみましょう」
「葛城!?」
「……渚君が出撃するまでの時間稼ぎにはなるわ」
「見捨てるって言うのか?」
「まさか、大丈夫よ、引き際くらい知ってる子だから」
「しかし……」
「……お仕置き、してあげなくちゃ」
 ミサトはアスカに目線を送った。
「どっちが悪いかなんて問題じゃないわ、でもね、姿を消して、心配掛けて、その揚げ句世界をこんな風にしてしまって、……わたし達は機械じゃない、生き物なのよ?」
「……」
 アスカは何も言わない。
 ミサトの論理に穴があると気付いていながらも返さなかった。
 先に皆があのような暴挙に出たから、このような『救済』策に出なければならなかったのだから。
 アスカはほんの少し前のことを思い出した。
『誰よ、あんた達……』
 混乱する世界、暴徒と化した民衆、暴漢に取り囲まれたアスカを救ったのは茶色、苔色、白色のローブを纏った三人だった。
 アスカを一体どのような類の獲物と見たのだろうか?、性欲か、暴力の対象か、それとも略奪の商品か。
 恐怖に突き動かされている彼らには、もうその判断がつかなくなっていたのかもしれない、そして彼らは決して触れてはならない者達によって『機械昇華』を受けた。
『あんた達……』
 アスカは直感的に、彼らが『誰』の遣いであるかを察知した。
『ねぇ……、お願いっ、シンジの所に!』
 次の瞬間。
 アスカは人類補完委員会のベースキャンプに転移させられていた。
(シンジは全てを断ち切る気なんだ……、あたしのことも、みんな)
 それは迷いになるから。
(馬鹿……、無理しちゃって)
 能面のような顔、その下にある慟哭を推し量れる者はこの場にはいない。
 いや……
 一人だけ居た。
 それはモニターの向こうから真っ直ぐにアスカを見ている、怪物と化した一人の少年……
 −キミトボクハ、オナジダネ−
 アスカは頷いた。
『霧島マナ、GR、出ます!』
 艦後部、煙突状に展開された後部射出口から、ずんぐりとした巨大なロボットが飛び立った。


GenesisQ'151
「こっぱみじんの恋3」


「酷い……、シンジ君がこんなことをやらせてるって言うの?」
 マナは次々と送信されて来る世界の様相に身を震わせた。
「止めなくちゃ」
 ぎゅっと唇を噛んで『前』を見据える。
 VRヘッド内のディスプレイに大写しになる少年に叫んだ。
「浩一!」
 激突、頭に当たるのだろう人形部分にマナはGRを突っ込ませた。
「どうしてこんな!」
『僕が望んだから』
「……誰?」
『僕がそう願ったんだよ』
「シンジ君!?」
 浩一の姿がシンジに変わる。
「どうなって!?、きゃあ!」
 がつんと衝撃、横殴りにされてマナとGRは海に落ちた。
『まだ僅かながら時間があった』
 その声は船の皆にも聞こえていた。
『人の心を、英知を、知恵を結集するだけの時間は残されていた、でも君達が台無しにした!』
 再び浩一の姿に戻る。
「だからって!」
 GRの背面、メインロケットがその巨体を持ち上げる。
「こんな……」
『君達は衛星回線を通して情報を交換しているね?』
「何が言いたいの!」
『何故、邪魔をしないと思う?』
「……何?」
『それがわからなければ、君達にシンジ君の願いはわからないよ!』
 ようやく水から足が出かけたGRに、怪物の胴部、その顔の口が上下に開いた。
『GRではDGに勝てない!、GRは旧世界の遺産、核を用いた単純なロボットだからね、ナノマシンの集積体であるDGには勝てないさ!』
「ひっ!」
『眠れ、マナ、夜が明けるまで』
『そうは行かないよ!』
 DGを襲う突き上げるような力。
『カヲル君か!』
 横倒しになるようにひっくり返るDG、その下から百メートルクラスの艦が噴煙を上げて飛び上がった。
 流線型の胴体の左右に細い腕が存在した、銃を握って見える。
『グラップラーシップ!?』
 バシュッ、バシュッと噴煙を吹いて軌道を変え、今度は空中から突進しようとした。
『くっ!』
 足を成す触手を持ち上げて迎撃を敢行する、しかし。
 キィンと、光の壁が光線を弾いた。
 ……赤い光だった。
『君が保護していたのかっ、彼を!』
 クラシックカーを模したコクピット、その背後に円筒形の筒があった。
 その中に人影が見える、少女にも少年にも見えた。
『彼は彼らよりも僕達寄りの人間だからね』
『友達を生体コンピューターとして組み込むなんて!』
『彼には僕達以上に力があった、彼は世界を救うためならと協力してくれているんだよ』
『その傲慢さが!、シンジ君を苦しめているとどうして理解出来ないんだっ』
『……何を言われようとも、僕は僕の道を行くよ、この世界さえ残れば、心を癒す時間も作れるさ』
『それでは遅いと言っているのに!』
 起き上がるDGと掠めるように飛び去るグラップラーシップ、その際に両側とも多くの被弾を受けていた。
 しかしDGにはナノマシンによる修復機能が存在した、一方で。
(たった一度の接近でこれかい?)
 レッドアラームが鳴り響く、船体の『汚染』状況が刻一刻と進行している。
 大気中に充満しているDG細胞に犯されているのだ。
(船体のシールドは宇宙線にだって堪えられるのに、やはりあれの傍は密度が違うと言う事か)
 一旦離れて距離を取る、が。
『霧島さん!?』
 そこまでの会話を黙って聞いていたマナが動いた。
 DGの真正面からその巨大な顔に、背面右ロケットを肩に倒して向けたのだ。
「このっ!」
 ぽんっと軽い音がして先端だけが飛んでいった。
 本体の細胞だけでは足りなかったのか、大気中のDG細胞を吸い込んでいた顎に吸い込まれるように消えて行った。
 そして爆発。
『こっちだ!』
 飛んで来たカヲルの船に掴まって、マナのGRは離脱した。


「やってくれたね、霧島マナ……」
 燃え盛る業火の中で、浩一は気怠く汗で張り付く前髪を掻き上げた。
 DGの頭の上である、しかしその炎に焙られることはなかった、何故なら守られていたからだ。
 前に二人、後ろに一人、浩一を中心に正三角形を描いて『壁』を展開している。
 カヲルの前に現れ、アスカを救った彼らであった。
「そうまでして、シンジ君の願いを蹴ると言うのかい?、君達は」
 様々な反論が頭に響く。
「信じられない?、なら世界を見ればいいさ、君達が誘発した恐怖によって死んだ人達が蘇る様をね!」
 浩一の背後、遠く空の彼方できらきらと光った、いや、全方向で何か煌めく物が天に昇った。
 それは機械化した生物だった、人が飛び、動物が羽ばたき、虫が舞う。
「君達が未来のためと称して切り捨てようとした人類、いや、兆を越える全ての命が君達の敵だ!、皆の幸せを守るためなら、人を殺す覚悟がある?、良い心掛けだよ、でもね、それを知れば確実に悲しむ人が居ると言うのに、そうまでして幸せにして欲しくなって喚くに決まっているのに、君は!、……何を言っているんだい?、そうか」
 浩一は誰かに……、おそらくはカヲルだろう、に、意識を傾けた。
「嫉妬しているんだね?、いつの間にか君よりも彼と通じてしまっている僕に、彼が何を成そうとしているか全てわかる僕に、そして」
 厭らしく笑う。
「君よりも僕を当てにした彼に!」
 爆発する感情、それは認めないと言う足掻きの声。
「彼を裏切ったのは君だ!、彼が心配なら世界のことなんて放っておいて、彼だけを心配すれば良かったんだよ!、それが出来なかった君に何を言う権利がある!、彼が見限ったんじゃない、君が彼のことを後回しにしたんだ!」
 声と思念、だが質は同じ二つのものが、目には見えない信号波としてぶつかった。







[BACK] [TOP] [NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q