「浩一くっ!」
 後半は風の音に紛れてしまった。
 風に吸い出されていく浩一、一体いつの間にこれほどの高度に上っていたのか?、船体に鉤爪を噛ませたガルーダが、羽ばたき大きく引き上げていた。
 重力制御でも行っているのか、浮遊滞空していたネプチューンが腕を広げる。
「今いまし、昔いまし」
 その前に同じポーズで浮かぶ浩一。
「やがて来たるべき者、全能者にして主なる神が仰せになる」
 ぶつぶつと呪文の言葉を唱え上げる。
「我はアルファであり、オメガである!」
 −クェエエエエ!−
 怪鳥が奇声を上げて船を捨てた、破片を撒き散らしながら遥かな海原に落ちていく。
 黒い女性の姿を取ったロデムが浩一の腕に収まり、次には身を捩って捻り上がった。
 巨大な三つ股の槍に姿を変貌させる。
 それを掴むネプチューン、ガルーダが腰に足を回すようにして抱きつき、融合を果たす。
 −アクセス−
 ネプチューンの胸が開く、肋骨が、腕を広げたままその中に収まる浩一。
 それはまさに『合体』であった。


GenesisQ'152
「こっぱみじんの恋4」


「なんだ、あれは……」
 加持は愕然とした表情で合体した浩一の新しい姿を見上げていた。
 大きく翼を広げた白い巨人。
 その身長は十五メートルにも達している、翼の両端ではその倍だろうか?、いや、そんなことよりも生物的なフォルムはまるで……
「天使じゃないか……」
「光量、上がります、フィルター使用、映像の光度と照度、五十パーセント落ちです」
 落ち着いたマユミのオペレートが続く、藍色になった空に光の塊。
 −アアアアア……−
「この声は?」
「歌ってる……」
「この声」
 アスカの震える声にミズホが続いた。
「シンジ様の声ですぅ!」
 −アアアアア……−
 震えるような泣き声が……
 まるで胸を締め付けるようで痛かった。


「始まったか」
「ああ」
 −第三新東京市、ネルフ本部−
 碇ゲンドウは静かに時を待っていた。
「街の様子は?」
「至って平穏だな、情報管制を敷いたのが間に合った」
 冬月は深く溜め息を吐いた。
「しかし、これほどのものを隠していたのか」
 モニターに映る空は、重くどんよりと曇って見えた、時折走る雷は、DG細胞と呼ばれるナノマシンが接触消滅を起こして発生している現象だろう。
「方舟に詰まれる予定のシールドと対消滅エンジン、その試作機を起動させたに過ぎません、所詮は時間稼ぎですよ」
「……疲れているのか?」
「……」
「言葉遣いがらしくないぞ」
「……そうだな」
 ふうと溜め息を吐く。
「確かに危機は迫っていた、しかし昨日今日と言う訳でも無かった、何がここまで狂わせたのだ?」
「……この時代になっても、未だ地震の発生は予知の域を出ない、いつ来るかわからぬのなら、準備は早いほうがいい」
「アレクはどうした?」
「はしっこい男だ」
「既に次に動いたか」
 二人が見ているのは遥か上空に浮かぶ衛星からの映像だった。
 浩一の変じた天使が慟哭を叫んでいる。
「天使、か……」
「ああ、使徒、神なるものの遣い……、その血と、力と、命を弄んだ我々への裁定者として、彼ほど相応しい存在はないだろうな」


 カヲルは亀裂から外に出ると、船が着水して砕け散る前に宙に踊った。
 そして見上げる。
「それが君の力だというのか……、シンジ君!?」
 余りも神々しい浩一の周囲に、次々と白銀の天使達が転移してくる。
 その背後に巨大なシンジの姿が垣間見えた。
 −カヲル君、どうして……−
 悲しげなシンジの声にカヲルは答える。
「……君と生きることが僕の願いだからだよ、結果、人を滅ぼしてもね」
 −どうして……−
「それが僕の願いなんだよ、君のいない世界と無は等価値なんだ、僕にとってはね」
 −わからないよ……−
「君は、死ぬべきじゃない……、だから」
 シンジの姿が消え、浩一であるモノが動いた。
 十五メートルを越える巨人が高度三千メートルから一瞬で音速を突破して降下した、衝撃波を海面に叩きつけて上昇に転じ、身を捻るように振り返って腕を十字の形に組み合わせる。
 −デュワ!−
 翼に目が開き、光が走って何かを腕に供給する、そして爆発的な閃光。
「!?」
 カヲルは咄嗟に壁で自分を覆っていた。
 その周囲を超高熱が大気をイオン化させて流れていく。
「僕は殺せないんじゃなかったのかい!?」
 つい毒づいてしまうカヲルだ。
 −きゃあ!−
 そんな悲鳴に振り返ってしまう。
「ディバスナーガ!?」
 加速して天使達を振り切ろうと言うのだろうか?、波間を滑るように迷走して見えた。
 船体表面を覆っている電磁シールドは、あまり役に立っているようには見えなかった。


「シールド内に直接転移して来るとはな」
 引きつる口元を隠そうともしない加持だった。
「どうするの?」
「どうにもならんな、これは」
 船内モニターに、天使に襲われる船員の様子が表示されていた、ゾンビのごとく感染し、増殖し、仲間を作り上げていく……
「負けを宣言しちゃうわけ?」
「リッちゃんじゃないんだ、こんなこともあろうかと、なんて都合よくアイテムなんて出て来ないさ」
 加持はアスカに振り返った。
「大丈夫なんだな?」
「命の危険はないって意味じゃ、ないと思うけど」
「……はっきりしないのか」
「あたしが聞いたのは、なんとかなる、絶対大丈夫、その二つの言葉だけよ」
 アスカは意識的に言外の言葉を省いていた。
 −サヨウナラ−
 口にする事を嫌ったのだ。
「……撤退しましょう」
 綾波の言葉に顔をしかめる。
「どうやって?」
「……仲間を頼るわ」
「総員待避できるのか?」
「……せいぜいこの場に居る人数が限界」
「なら決まりだな」
 加持は立ち上がった。
「山岸さん、葛城を頼む」
「加持?」
「アスカちゃん、レイちゃん、ミズホちゃんも、……元気でな」
「ふぇ?」
「加持!」
 ミサトは椅子から引き起こされた。
「あんた、マジなの?」
「逃げるわけにはいかんさ、見届けないとな」
 モニターを見つめる。
「あそこで頑張ってる、彼のためにも」


「お手上げだね……」
 カヲルはどうしたものかと対峙していた。
 彼我身長差約十倍の敵を前に、その圧倒的な質量感に呑まれることなく苦笑いを浮かべている。
「見解の相違……、そうだね、シンジ君は自己犠牲の精神が強過ぎる、だからサヨコに気に入られていた」
 唐突に彼女のことを引き合いに出す。
「優し過ぎる人間は何処かで損をする、サヨコのようにそれを喜びとするにはシンジ君は自己を犠牲には出来なかった……、背負わせ過ぎたのか、僕達は」
 希望や、夢や、願望を。
 ディバスナーガが機械昇華を受けて白銀に変わって行く。
 それを見下ろしたままでカヲルは嘆息した。
「例えここで引いたとしても、シンジ君は消えるつもりなんだろう?、全ての業を背負って」
 見上げたところに居る天使が頷いた気がした。
「そして彼の願いを妨げたとしても、彼は苦悩し、恨むだろう、どちらを選ばせたとしても、彼に辛い思いをさせる事になるのなら、生と死、僕が彼に押し付けるものは一つだよ」
 −世界の痛み−
「世界なんて大きなものの痛みなんて知らないさ、僕は僕の知る人達の痛みを止めるために、君と戦おう」
 少なくとも。
「彼が生き続ける事で、何人かの女の子は確実に胸を痛めずに生きて行けるから」
 浩一の言葉が蘇る。
「そう、彼の言う通りさ」
 自嘲した。
「レイも、アスカちゃんも、ミズホも……、僕なら、どんな結末に繋がろうと、犠牲にして生きて行けるはずだから」
 浩一に対して、レイがしかたが無いと割り切れるように。
「だけどシンジ君の代わりは居ない」
 だから。
「まだもう少しだけ」
 戦おう。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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