「やめてっ、やめてよヨウコ!」
 レイの叫びは届かなかった。
「ふっ!」
「わっ!」
 狭い艦内の通路、何かが音速で踊り反動を殺す一瞬だけその残映を確認させる。
 それは高速で舞う光の鞭だ。
 二歩、三歩、距離を詰めるたびに腕を振るう、一振り事に光の鞭は数度舞う。
「くっ!」
 しかしそれを、後ろ向きの危ない足取りながら彼は全て避けていた。
 シンジは。
「僕にだって言いたいことはあるんだ!」
「勝手な事を!」
「聞いてくれたっていいでしょう!?」
 力の使えないシンジとヨウコ、戦闘力に関しては圧倒的な傾きがあり、決定力は双方に欠けていた。
(こいつ!?)
 専門に戦闘訓練を受け、エヴァと言う名の因子によって極限まで高められた反射神経に、目覚めないまま拮抗して見せる碇シンジと言う少年。
 これは彼女にとって驚異であった。


GenesisQ'154
「QUINTY」


「やめさせない、いま、すぐ!」
 叫ぶカスミ、しかし周囲の反応はとても鈍いものだった。
「シンジにいちゃんすごーい」
 マイだ。
「ええ……、ヨウコに負けてないように見えるわ」
 二人の戦闘は艦内のカメラによって中継されている、寸断される壁、扉、カメラ。
 特殊合金に切れ目を入れ、焦げ付かせるヨウコの鞭を、時にシンジは『素手』で叩いて躱して見せる。
 小さなモニターには、その都度別系統の解析数値が重なってスクロールしていた。
「どうなの?」
「反応速度、反射速度、凄いですね、とても人間とは思えません」
 興奮した声を発するオペレーターの男性。
「E反応も検知されません、純粋に肉体そのものが変質している可能性があります」
「本人かどうかの確認は取れないの?」
「……E反応が出たところで比較出来る資料がありませんし、大体、この船にはそんな機能はありませんよ」
「そう……」
 カスミはモニターに魅入った。
「何があったの?」


 事の発端はシンジへの尋問ともとれる詰問だった。
「覚えてない?」
 サヨコによって回収されたシンジとレイは、消えたはずの服も復元されて五体満足に以前の姿を見せていた。
 レイはしっかりと覚えているのか、ぼんやりとしているシンジの体を覆うように包んでいた。
「途中から……、凄く記憶が曖昧で」
 がたがたと震えながら、シンジはポツリポツリと語り始めた。
 その内容はこれまでの経過を追うに過ぎないものだったが……
「苦しかったんだ……、凄く悲しくて、どうにかしなくちゃって思って、僕がどうしてとは思えなかったんだ、だって……」
 そこに居る顔ぶれを見る、レイ、サヨコ、ヨウコ、マユミと。
「見えたんだ、戦争で死んでいく人達とか、崩れたビルとか、全部が僕のせいみたいで、そんな気がして、だからなんとかしようって」
「……勝手だな」
「ヨウコ?」
 怪訝そうな声を出すサヨコに横目を向け、またシンジに戻した。
「自分のことは自分でやる、誰かに救ってもらおうとは……」
「……自分達だってやったくせに」
「なんだと?」
 シンジは顎を引きながらも睨み返した。
「誰が助けてなんて頼んだんだよ、頼んでもいないのに人を殺して、子供を集めたのは何処の誰だよ」
「お前に言われる筋合いは」
「僕にだってないよ」
 きっぱりと良い放つ。
「あの子達は今どうしてるんだよ」
「……まだ保護されてません」
 マユミ。
「未だ何処かの海の底です」
「何もしなかったくせに、何もしないで、人が酷い事をしてるのを見てただけで」
「シンちゃん?」
「人が死んでくんだ、みんな泣くんだ、やめてって、助けてって、それをしようがない、しかたがない、とりあえずって苛めたのは何処の誰だよ」
 たじろぐヨウコ。
 シンジは頭を掴むように指を立て、引っ掻いた、ぎりぎりと力が入って、頭皮に傷を付け、髪を引きちぎろうとする。
「シンちゃん!」
 血が流れ出る。
「え?、あ……」
 一瞬、シンジは傍で呼ぶ人が誰なのかわからないと言った顔をした。
「……レイ?」
 ああ……、と思い出したように語り直す。
「ごめん……、余裕が無かったんだ」
「シンちゃん?」
「のんきに自分のことだけ考えて、様子を見てるなんて出来なかったんだ」
「だからなんとかしようとしたの?」
「わからないよ……、したかったのか、頼まれたからやろうって思ったのか、よくわからないんだ」
「だがお前が今の惨状に導いた」
「ヨウコ!」
「狂ったように走らされたのも確かだ、躍らされていた、誰かにな、わたしはそれに荷担しなかった、それは誇れる事だと思っている」
「……見ていただけなのに?」
「そうだ」
「できることがみつからなかっただけなのに?」
「……そうだ」
「自分と同じ苦しみを、想いをする人を増やしてるんだってわかってて?」
「お前になにがわかる」
「わかんないよ、わかるもんか」
 吐き捨てる。
「理解りたくもないよ、彼はただ、今そこにある危機を教えてくれただけだったのに」
「なに?」
「不安に躍らされた?、違うよ、沈む船から鼠が逃げ出すのと同じだよ、せっかく彼がなんとかできるようにって教えてくれたのに、勝手に脅えて走り出したんじゃないか、ちょっとだけ立ち止まって、ちょっとだけ考えれば気付ける事だったのに、悪いことだってわかってたんだろ、わかってたけど仲間になりたくないとか思ったんだろ?、少しでも手を貸したら自分は仲間になっちゃうからって見てたんだろ?、自分は違う、自分の手は汚さない?、そうやって逃げてたんだろ?、荷担しなかった?、違うよ、自分のことだけ考えて、自分が悪者にならないように気をつけてただけじゃないか」
 ふぅふぅとシンジの荒い息が室内を満たす。
「……言いたいことは、それだけか」
 そして二人の戦いが始まった。


 船内を荒らすだけ荒らした二人は艦の上甲板に場所を移していた。
「あれがシンジなの?」
 そう口にしたのはサヨコに回収を受けたアスカだった。
「シンジ様、カッコいいですぅ」
 こちらは少々呑気である。
 じっと船外カメラの映像を見ているミヤ、だが実際には違うものをミヤは見ていた。
「感じる……」
「ミヤ?」
 怪訝そうにカスミ。
「なにかわかるの?」
「……シンジ君のがあたしの中で共鳴してるの、ヨウコの考えがなんとなくわかる、声になるほどはっきりとした思考じゃないけど、声も力も同じ力が源だから」
「力による攻撃は、声と同じ?」
「うん、何をしようとしてるのか叫んでるみたいに手に取るようにわかる」
 カスミを見る。
「ヨウコは勝てない」
「押してるように見えるけど?」
「……あたし、見たの、シンジ君と何かが融合してる姿を」
「融合……、もしかしてリープタイプ?」
「他にはいないと思う、今リープタイプの細胞は急激に死滅してる、体を動かす度に破壊されて」
「それがあの動きの正体なの?」
「それともう一つ、膨大な情報を処理するためにシナプスとか……、脳内の電化物質の一部が通常の生物のものとは異なってる、それも元に戻るでしょうけど、肉体全体に作用しててあり得ない反射行動を可能にしてる」
 それは近くの中心で瞬時に膨大な作業を行うための肉体改造でもあったのだが。
「力を使って強くなってるんじゃない、今は高みから地に堕ちる途中なの、でもヨウコを倒すくらいの力はまだ十分にあるわ」
「……なぜそうしないの?」
「わからない?」
「?」
「シンジ君はわたし達と違って平和ボケした国に生まれたただの子供なのよ?、どんなに力を持ってても、殺し合いになんて付き合えるはず……」
「あのぉ〜、お話し中もうしわけございませぇん……」
 くいくいっと袖を引かれて、ミヤはミズホに顔を向けた。
「なに?」
「あのぉ、シンジ様のが秋月さんのお腹にってどういうことなんでしょうかぁ?」
「は?」
「うう、まさかシンジ様と、シンジ様と、シンジ様のが、シンジ様とこんなことしてこんな風に!?」
『その手付きやめぇ!』
 とりあえずなにやら怪しい手付きは、アスカとレイによって止められた。







[BACK] [TOP] [NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q