夏、真夏の陽射しは灼熱の温度を持って大地を焦がす。
 しかしそれをこえる熱気が地上からは放たれていた。
 場所はアメリカ。
 アリゾナの大地にて。
『エンジェル・ロック・フェスティバル』
 第一回大会、世界的なメジャー所としてはカイザーなどが参加している。
 荒野の真ん中に作られたステージ、見物客は二十万を越えていた。
 暑さからか、女性でさえ胸を放り出し、中にはボディペイントのみで歩き回るパフォーマーも数多く見られた。
 巨漢と言えるごつい体。
 見ただけで威圧される毒々しいタトゥー。
 興奮から我を忘れて叫び喚く集団は、観客というには恐ろしい。
 −−場違い。
 ステージに立った少年少女の一団に野次が飛んだ。
 むっとしたのは赤毛の少女だ、口汚ない英語で罵り返す。
 こほんと咳をしたのはマイク前に立った二人の少女の内、背の高い子であった。
『……』
 何を言ったのだろうか?、誰もわからなかった。
 ただ、小さな子も同時に同じことを口にしたはず、それだけは『知覚』できた。
 マイと、メイである。
 −−わたし達の歌を、聞いて下さい。
 言霊として放たれた日本語は、その場だけでなく中継で見る数百万の人間の心を、まさに一瞬で掴んでしまっていた。


GenesisQ'156
「KAGEROU」


『E・L・F』、妖精の集いとも呼ばれたエンジェルロックフェスティバル、衝撃のデビューを果たした天使達は帰国後も精力的な活動を余儀なくされた。
 これを追いかけた記者の一人はこう語る。
「マイとメイの歌声は詩がどうのこうのじゃないんだな、震え、とでも言えばいいのか、とにかく聞いてる者の心の琴線に触れるんだよ、弾かれるんだ、それをまた損なうことなく生かしているバックバンドにも注目するべきだよ、素人、はっきり言ってミスも多いし、技術も稚拙だ、だけどそれが良いんだなぁ、技巧に走られると耳障りになるし、程よい、っていうのも変な言い方だけど、ああ、でも、ギターの子だけはどうにかした方がいいな、イケてるときはイケてるんだ、たまぁにソロで弾くんだけど、圧倒的な力を持ってる、え?、マイとメイの歌声を壊すかもしれないから?、違うって、そうじゃなくて、どうしてここで、こんなことやってるんだろうって……、たまにそんな弾き方してるんだよな」
 ワンステージ終えて控え室に戻ろうとした少女は、そこもまた騒がしいのを感じて舌打ちした。
「これ、カヲルさんに!」
「ありがとう」
 微笑み、たとえ作り笑いであっても関係など無いのだろう。
 十人からの大所帯で控え室まで押し掛けて来ていた少女達は嬌声を上げた。
 受け取った花束を抱え直し、カヲルは呟く。
「奇麗な花だね……」
「リムディアって言って、日本じゃ咲かない花なんですよぉ?」
 光の加減によって七色に変わる。
(そう、まるで僕のようだね)
 今は彼女達の笑顔、先程まではスポットライト、夜は月、闇の中でさえ彼を照らす何かがある。
 それを受ける時と、場所によって自らの役割を変えて演じて見せる。
 それが今のカヲルだった。
「あんたねぇ」
 素肌の上に直接レザージャケットを羽織ったアスカが、しかめつらで入室した。
「楽屋に人、いれないでよね」
 誰かのものらしいペットボトルを取って口を付ける。
「お客様は大切に、だよ」
「警備員が何のためにいるのかって言ってるのよ」
 やれやれ、と肩をすくめた。
「僕がここに居る、それ以上の安心があるかい?」
「……そうだけどね」
「あの……」
 恐る恐る質問された。
「やっぱり、カヲルさんとアスカさんって」
「は?」
「えー?、やっぱり!?」
「付き合ってるんですかぁ!?」
 きゃーっと喚かれ、カヲルは苦笑し、アスカはげんなりとした。
「どうしてこう、どいつもこいつも」
「グループ内での恋愛、そういった話題は昔から楽しまれるものさ」
「喜ばれるかどうかは別にしてって?」
「そうだね」
「悪いけど」
 アスカは自分のバッグを肩に引っ掛けた。
「あたし、そんなに趣味悪くないから」
 きょとんとした、一同、いや、カヲル以外は。
 なびく赤毛を見送ってからようやく空気が動き始める。
「趣味悪くないだって」
「カヲルさん、いっつもあんな風に言われてるんですかァ?」
 カヲルは苦笑し続ける。
「そうだね」
「えー?」
「でも彼女の言う事も仕方無いさ」
「カヲルさんって、変なんですか?」
「さあ?、それはともかく、彼女はとても趣味が良い、良過ぎるくらいだからねぇ」
「はい?」
「彼女には心に決めている人が居る故に、と言うことさ」
「ええー!?」
(ただ、ね……)
 カヲルは心配する。
(フラストレーション、増大中)
 と。


 レイとミズホの部屋に逃げ込もう、そう廊下を歩きながら、アスカはまだ顔をしかめていた。
 思い出すのはあの日の夜のことだった。


「おかえりぃ!」
 ただいまぁ、とやけに覇気の無い声に気付く前に駆け出してしまって、アスカはほんの少しだけ後悔した。
「あ……、シンジ?」
 階段の途中でとまる、どんどんと背中にぶつかられても気にならなかった。
「アスカぁ!」
「なんですぅ?」
 ふたりからはわからないらしい。
 三人は悩んだ揚げ句に、寝間着ではなくタンクトップシャツにショートパンツと言った、下着抜きの非常に微妙な恰好で、半ば肢体を晒していた。
 しかし……、気付いているだろうに、シンジは動揺もせずに見上げて来る。
 戸惑う、しかないだろう。
 次のような事を言われては。
「アスカ……、今日、みんなで寝ない?」
 何を確かめたかったのか?
 未だにアスカにはわからない。


 あの夜のことを思い出すと複雑になる。
「アスカ……、今日、みんなで寝ない?」
 そう告げられたアスカの反応。
「いいけど……、みんなって」
 振り向いて二人を見る。
「あたしシンちゃんの隣!」
「わたしもですぅ」
「……じゃああたしはシンジの上で良いけど、どうしたの?」
(アスカって)
(ですぅ……)
 それはともかく。
 レイは黒く長いウィッグを被って、それとなく客に混じって外に出た。
 あの夜、実際に眠ることは無かった、シンジの部屋で軽く親の酒を盗み飲みしながら、シンジが聞かされた話を聞いたのだ。
「僕には、なんのためにそんなことをしなくちゃならないのか理解らないんだ」
 当然!、っとアスカが憤慨した。
「なによそれ、いまさらなに?、力とか技術とか、必要とされるものを持ってるから応えなくちゃなんない?、それって利用されろって事じゃない!、変よっ、シンジの事なんてどうだっていい、自分達のやろうとしてることが上手くいくように、確率を上げようとしてるだけ、それって協力なんかじゃない、ただの……」
 尻すぼみになったのは、その先は口にすべきではないと思ったからだろう。
「今も……、どこかで誰かが苦しんでる」
 レイ。
「それはわかる……、理解る気がするし、ずっと考えて来た事だから、あたしには」
 レイの捜していた仲間達、消息不明の……、その多くが今や保護されているし、社会的にも被害者として認知されようとしている。
 それは喜ばしい事だ、が、一方でずっと抱えて来たその想いは、いま、この世界の何処かで辛い状況に堪えている人間が居ると言うそれと合致してしまう。
「けどねぇ」
 口を尖らせるアスカだ。
「そんなこと言ってたら、世界中の人間全部救わなくちゃならないのよ?、この間それで失敗したばっかりじゃない」
「だけど」
「人間なんてね」
 冷めた声で言う。
「目に見える範囲で、お互いがお違いに優しくしあうので精一杯だとアタシは思う」
 それがどういう意味だったのか?
 レイには未だに理解らない、ちなみにミズホの意見は無かった、なぜなら……
「すぅ……」
 あぐらをかいているシンジの膝の上に身を丸くして、優しく撫で付けられ、すっかり寝入ってしまっていたからだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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