「はい?」
ぽかんとしてしまった数秒後、父と母はポツリと言った。
「馬鹿面だな」
「馬鹿面ね」
「なっ、何が馬鹿面なんだよ!」
母はお茶を飲みながら、父は嫌味ったらしく指差した。
「そうじゃなくて!、またからかおうとして」
「シンジ」
「なんだよ!」
「嘘ではない」
シンジはいい加減にしろと言おうとしてできなかった。
「嘘ではないのだ」
今までになく真剣な表情に息を呑まされる。
(この雰囲気、どこかで)
そう、綾波レイ、彼女を引き取った時に聞かされたショックな話。
いま父が生み出そうとしているこの雰囲気は、あの時の空気に似てはいないだろうか?
「今一度言う、シンジ、お前はこの家で生まれた子ではないのだよ」
「じゃあ、拾って来たって言うの?」
「いや、お前は間違いなくユイの子だ」
「え!?、どういう……」
ユイは無言で茶をすすっている。
「つまり、お前はレイとは結婚出来ないと言う事だ」
「はぁ?」
「引き取った時、戸籍にはこう書いた、養子とな」
ますます分からなくなる。
「じゃあやっぱり拾って来たとか」
「何度も言わせるな、頭が悪いぞ、馬鹿息子」
「今、うちの子じゃないって言ったばっかりじゃないか」
「くっ、誰に似たんだ、その口は」
「親なんじゃないの?」
「わたしですか?」
「違う、違うぞユイ!」
「何を焦ってるんです?」
「何焦ってるのさ?」
くっと歯噛みする父である。
「覚えておけ、小遣いを六十パーセントにカットだ」
「あ、酷い」
「黙って聞かんからだ、最後まで黙っていれば小遣いの圧縮率を最大限にまで引き上げてやったものを」
「それって、前借りさせてやるって事?」
「そうだ」
「……全然得しないような」
「何か言ったか」
「別に」
「ふむ、それでは話を続けよう」
ふんぞり返るが、威厳は著しく減じていた。
「からくりを解く鍵はシンジ、お前とレイ君の誕生日にある」
「誕生日?」
「そうだ、……レイ君の誕生日は、お前と同じ、六月の六日だ」
「六月、六日……」
「そうだ」
「え?、でも綾波って、母さんの卵子がどうとかって」
「そうだ、つまりレイ君はお前にとって他人ではない、と言うことだ」
「詳しく説明してよ」
「端的に説明する」
「……」
「レイ君とお前はほぼ同時に生まれたのだ、そしてその三ヶ月後に、レイはお母さんのお腹から生まれた」
「じゃあ、僕は……」
「そう、レイ君とお前は」
「そんな、そんなことって」
ずずっと茶をすするユイである。
その音だけが静寂を壊す。
「でも、じゃあ、どうして?」
「サチ君は病弱だったからなぁ」
「そう……」
「だがシンジ、お前はユイの子だ、……レイ君と同じくな」
はっとする。
「父さん」
「そう言う事だ」
新聞を広げて顔を隠す。
「シンちゃあん!」
ちょうど声が聞こえて来た。
「タオル忘れたのぉ、取ってぇ!」
「分かったよ!」
シンジは立ち上がる、その時にはもう、さっぱりとふっ切った顔をしていた。
していたのだが。
「父さん」
「なんだ」
「新聞……、下ろして見てくれない?」
「……」
「母さん」
「はい」
「ああっ、なにをする、ユイ!」
やはり向こう側で笑いを堪えていた。
「やっっっぱり嘘なんじゃないか!」
「何を言う!、お前は病院で生まれたのだしレイとは結婚出来ないしレイ君とは血が繋がっている、レイ君の戸籍登録も養子になっているぞっ、嘘など何も言っておらんわ!」
「もう、何してるのぉ?」
「遅い……」
柱の陰からひょっこりと顔だけ覗かせるレイ’sだ。
「喧嘩?」
「じゃれ合いよ、はいはい、タオルね、廊下濡れてるじゃない、早く戻って」
「「はぁい」」
ところで、先に戻ろうとしたレイはちょっとだけ振り返って口にした。
「お父さん、嫌い」
どうやら丸めた新聞でお互いの頭を狙い合う二人が、実に楽しそうに見えたらしい。
そんないつもが充満している、今日も平和な碇家であった。
とぅーびーこんてぃにゅうど
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