ザザーン、ザザザーン…
 寄せては返す波の音。
 波打つ浜辺、夕日の中にたたずむ三人。
「綾波、君は…」
 彼、碇シンジ15歳は激しく動揺していた。
 15年前。
 人類初の地球外生命体との遭遇は、地球人類に深刻な問題をもたらした。
 宇宙怪獣による地球全土の破壊、だがこれを倒した時には既に遅く、人類は滅亡の危機に瀕していた。
 そして今。
「わたしは、アヤナミ星雲から来た、ウルトラレイ…」
 青く短い髪が潮風に揺れる。
 逆光に溶けて顔は見えない、だが赤い瞳は意思の強さを伝えて来ていた。
「宇宙人!?」
 驚きに目を見張ってしまうシンジ。
「そしてあなたもでしょ?」
 綾波が、赤い瞳を少女に向けた。
「あ、あたし!?」
 シンジの後ろに立っていた髪の長い女の子が、実にわざとらしく護魔化した。
「…ごまかさないで、分かっているはずよ?」
 時間が無いと言うことを…
 綾波の瞳は、ごまかしを許さないと睨みを効かせる。
「あなたはラングレー星雲から来たウルトラアスカ」
 ガガーン!
 シンジは衝撃に耐えかね、一歩、二歩と後ずさってしまっていた。
「そんな…、どうして?、騙してたんだ、僕をずっと騙してたんだ、僕たちをずっと騙してたんだ!」
 仲間のふりまでして…
 シンジは涙を堪え、ギュッと唇を噛み締めた。
「…あんたバカァ?、宇宙人を敵と決めつけてるあんた達に、どうやって説明しろって言うのよ?」
 頭悪いんだから…
 アスカの目は軽蔑に満ちている。
「役立たずは引っ込んでなさいよ」
「宇宙怪獣は再び現れたわ、もう止めることはできない」
「なにが!?」
 シンジは二人に脅えていた。
 今だ地球外生物に対する有効手段を、彼ら地球人は何一つ持ちえてはいないのだ。
「あいつらはここを産卵地に決めたのよ」
「産卵?」
 シンジは初めて、敵がやって来る理由を知った。
「そ、ここからまた多くの宇宙怪獣が巣立っていくの…」
「あたし達は、それを阻止するためにやって来たのよ…」
 アスカとレイは並んで立った。
「じゃ、いくから」
「さよなら」
 ピカ!
 シンジの目が閃光に焼かれた。
「綾波、アスカ!」
 ジュワッ!
 戻って来る視力、だがシンジが見て取れたのは、遠くに飛び立つ赤と青の巨人の姿だけであった。


ウルトラマンエヴァ 第一話『誕生編』


「まさかあの二人が宇宙人だったとはな…」
 対地球外生命体対策本部「ネルフ」  白髪、初老の老人が、後ろ手にスクリーンの中の戦いを眺めていた。
 デュワ!
 緑色の怪人、その腕から伸びる光の剣を、ウルトラアスカはさばいて避けた。
 巨大な投影スクリーンに映し出されている光景。
「碇…」
「ああ、勝てんな」
 ネルフ司令、碇ゲンドウ。
 その赤い眼鏡の奥の瞳は、決して戦いを人任せにしようとはしていない。
 デュワアアアアアア!
 ズガァン!
 廃墟と化した街、そのビルの間に、赤い巨人が倒れ込む。
 その右目を貫く剣。
 ブシュ!
 引き抜かれた途端、赤い血が吹き出した。
 ジュワ!
 青色の巨人が割り込む。
 カ!
 怪獣の仮面のような顔、その眼孔が光り輝いた。
 ドゴォン!
 ウルトラレイの顔面に爆発が起きる。
 カウンターを食らい、倒れ込むレイ。
「どうする?」
 ニヤリと笑むゲンドウ。
「N爆弾を使用する…」
「しかし桜花の整備がまだ!」
 オペレーターの日向が叫びを上げた。
「問題無い、桜花そのものは15年前の設計のままだ」
「だがパイロットが居ないぞ…」
 冬月の問いに、立ち上がるゲンドウ。
「冬月、後を頼む…」
「碇司令!」
 叫びも空しい、ゲンドウは意に介さない。
「僕が桜花で出ます!」
 スピーカーからシンジの叫びがこだました。


「シンジか…」
 スピーカーからゲンドウの声が返って来た。
 すでにコクピットの中で、発進準備を進めているシンジ。
「マニュアルで誘導すればいいんでしょ?」
 シンジは気軽な調子で質問した。
「死ぬつもりか!?、それは特攻兵器なんだぞ」
 青葉と言う長い髪の青年が映像回線を開く。
「たとえ脱出しても、爆発に巻き込まれて…」
「でも、このままじゃアスカたちが!」
 デュワ!
 ズズゥン…
 倒れるウルトラアスカ。
 席に座り直すゲンドウ。
 特攻兵器に息子を乗せるか…
 冬月はそれに乗ると言うシンジの気持ちも分からなかった。


「桜花、父さんが作り、母さんが命を賭けた機体が僕を必要としている」
 空を飛ぶ白銀の戦闘機。
「おもしろいじゃないか、死ぬことなんて恐いもんか!」
 もうまもなく、戦闘が行われている廃墟にたどり着く。
 役立たずは引っ込んでなさいよ、か…
 苦笑してしまう。
 確かに、僕は何の役にも立たない衛生兵だったよな…
 あんたバカァ?、包帯巻くぐらいしか脳が無いんだから…
 ちんたらやってんじゃないわよ、こっちは命賭けてんだからね!
 どうせ安全な所で見てるだけの癖に。
 僕は、居なくてもいい人間なんだ。
「見えた!」
 自暴自棄になりかけた時、シンジは敵の姿を視界に捉えていた。
 レイとアスカは倒れ伏している。
「綾波、アスカ、今行くよ」
 静かな調子で語りかける。
 ゴオオオオ…
 風を裂き飛ぶ音に、レイとアスカは顔を上げた。
 碇…、くん?
 首を傾げるレイ。
 特攻兵器桜花!、そんな、あれの自動化はまだのはずなのに!
 桜花のかかえるn兵器なら、少なくとも怪獣を行動不能に持ち込めるわ。
 だからなのよ!、例え脱出装置を使っても、その爆発はパイロットを巻き込むわ!
 だがシンジの操縦に迷いは無い。
 死ぬ気!?
 碇君!
 真直ぐに機体は突っ込んで来る。
 やめなさいよ!、あんたなんかが死んだって、誰も感謝しちゃくれないのよ!?
 引き返して。
 やめて、やめてよっ!、バカシンジぃ!!
 二人の叫びはテレパシーとなり、シンジを貫く。
 だがシンジの返事は簡単だった。
「さよなら」
 いやああああああ!
 アスカの叫びも空しく、突っ込む機体。
 だが怪獣の真正面に、金色の壁が現れた。
 ATフィールド!
 こいつ、使徒なの!?
 怪獣の胸に、胸肉を押し広げるように赤い玉が現れる。
「うわあああああああ!」
 カッ!
 閃光が全てを埋めつくした。


「勝ったな…」
 モニターも焼きついてしまっている。
「いや…」
 冬月に、渋い顔をするゲンドウ。
「爆心地に、エネルギー反応!」
「なんだと!?」
 全身を焼けただれさせてなお、怪獣はその原型を失ってはいなかった。


 使徒、神の使い、全てを無に帰す存在。
 ただの宇宙怪獣じゃなくこいつらが来た…、この地に何かがあるってぇの?
 それを訝しむアスカ。
 だめ、碇君が消えようとしてる…
 バカね、あいつ…
 シンジの最後の言葉がくり返された。
(さよなら…)
 死んだ人は帰って来ないのよ!
 アスカは何かを堪えるように叫んだ。
 死んだ人は、二度と…
 記憶に蘇るのは、死滅した茶色の惑星。
 でも碇君はまだ死んではいないわ。
 はっとするアスカ。
 あんた、まさか!
 碇君は死なないわ。
 決意に満ちた声が聞こえる。
 わたしが、助けるもの…
 レイの意識が消えていく。
 まったく…バカシンジが、手間ばっかりかけさせるんだから!
 そしてアスカも、シンジを探して意識を飛ばした。


 ここは…
 何処か温かい世界。
「僕は死んだのか…」
 なんだ、やっぱり死ぬことなんて、大したことじゃないんじゃないか…
 シンジはため息をついてしまった。
「僕は、なんのために生まれて来たんだろう…」
 そして死んだのかな?
 それだけが悲しかった。
「役立たずってバカにされて、最後も結局無駄死にか…」
 金色の壁。
 それにぶつかる瞬間が、シンジの最後に見た光景だった。
 役立たず!
 またしても叫びが聞こえる。
 まだ聞こえるの?
 嫌になる。
 何やってんのよ!
 耳を塞ぐ。
「頑張ったじゃないか!」
 叫び返す。
 頑張ってたんだ、頑張ってたんだよ!
 だが聞こえて来るのは、けなしの言葉。
 邪魔なのよ!
 気持ち悪い。
 あっち行ってて。
「どうせ僕は、いらない人間なんだ」
 風が吹いた。
 優しい風が。
 優しくして欲しいのね?
 風がそう囁いた。
「違う」
 否定する。
 どうして?
「いいじゃないか!、もう死んだんだ、終わったんだよ!」
 違うわ。
 風がシンジを取り巻いた。
「なに?」
 驚きに目を丸くする。
 風が人の形を取る。
「綾波?」
 優しくしてあげるわ。
 風がシンジを包み込む。
 嘘だ…
 あまりにも心地の良い感覚に、シンジは恐怖を爆発させた。
「嘘だ嘘だ嘘だ!、綾波が心配してるのは父さんなんだ!、父さんの息子である僕の事なんだ!、僕自身のことじゃないんだ!、だって綾波は…」
 シンジはあまりにも古い記憶を呼び起こした。
「そうだ、綾波は」
 宇宙人?
 ゲンドウに手を引かれてやって来た時のレイの姿が思い浮かんだ。
「そうだ、僕は…」
 綾波が宇宙人だって…
「知っていた」
 シンジは愕然としてしまっていた。


 この男は自分の妻を見殺しに…
 そうだ!、人間として許されざる…
 罵声がゲンドウをなじっている。
 シンジ、今日からお前の妹になる。
 おトイレ…、真夜中にうろつくシンジ、寝ぼけ眼が青白く光るレイを捉えてしまった。
 レイ、浮いてる…
 何をしている。
 父さん…
「あの時の父さんの顔が恐くて、僕は…」
 涙が溢れて来る。
 そう、知っていたのね…
 悲しげな声にはっとする。
「綾波?」
 だから、わたしを避けていたのね…
「違う、そうじゃない!」
 だがそうだとも心が叫んでいる。
「僕は…」
 あんたバカァ?、それが分かったんなら、さっさとこっちに来なさいよ。
 赤い炎が風に混じった。
「アスカ!?、どうして…」
 どうしてって、あんたを迎えに来たんじゃないのよ!
 苛立たしげな調子で怒鳴られた。
「だからどうしてさ!、僕はいらないんじゃなかったの!?」
 シンジは急に優しくなったアスカに脅えていた。
 い、一応助けてもらったからね。
 苦笑してしまう。
「いいよ、もう…」
 シンジはアスカから離れようとした。
 ちょ、ちょっと!
 レイの非難が風に反映されて竜巻を作る。
 ちょちょちょ、ちょっとあたしのせいだってぇの!?
 風が炎を吹き飛ばそうとする。
「僕はいくじなしで…、弱虫で、役立たずで…、どうせ助かってもまたバカにされるだけなんだ、それなら、死んだほうがいい」
 あなた、どっか余所に行ってて。
 なによ!、こいつのいじけ虫は根っからのもんじゃない!
 言い争い、二つの色が混ざり合う。
「僕に優しくしてくれる人なんて、いないんだ…」
 そんなことはないわよ?
 二人以外の、誰かの囁きが聞こえてきた。
「誰?」
 わからなかった、だが酷く心が和んでしまう。
 それを感じ取ったのか?、レイとアスカもここぞとばかりに手を差し伸べた。
 ほらバカシンジ、アタシの命を分けてあげる。
 わたしの命を分けてあげる。
 帰りましょう?
 帰りましょう…
 あたしと一つになるのよ?
 わたしと一つになりましょう…
「それはとてもとても気持ちのいいことなのよん?」
「って、ええ!?」
 シンジは突然目の前に現れた女性に驚いた。
「ミサト!?、ちょっと!、何であんたがこんな所に居るのよ!」
「だってぇ、暇だったんだもん」
 ペロッと舌を出す、年の頃は30前後だろうか?
「失礼ねぇ、まだ20代よ」
「あんた10万とんで29でしょうが!」
「うっさいわねぇ、あんただって似たようなもんでしょうが!」
「えええ!?、そうだったのぉ!?」
 何よバカシンジが!
 アスカは真っ赤になってはり倒した。
「あーあー、もぉ…」
 微笑ましく見やるミサト。
「シンジ君?、あたし達はね、いざってぇ時のために、命を二つ持ってるの…」
「二つ、ですか?」
「そ」
 ずっこい…
 シンジのジト目に、ミサトはこたえず微笑みを返した。
 その体は、裸体の上に赤と紫のラインがペインティングされている。
「だからあなたを生き返らせることはできるわ、でもね?、失ってしまった肉体の修復はできないのよ…」
「そんな!」
 驚くアスカ、その後ろでレイも眉をひそめている。
「いいですよ、別に」
 どこまでも冷ややかなシンジの反応。
「どうせ、死ぬつもりだったんだから」
「甘ったれないで!」
 パン!
 突然の平手にシンジは驚いた。
「何するんですか!」
 今度はアスカに張り倒された。
「な、なんだよ…」
「あんたまだ生きられるんでしょうが!、死んだ人の分もしっかり生きなさいよ!」
 涙?
「泣いてるの?、アスカ…」
 おろおろとするシンジの両肩に、ミサトは後ろから手を置いた。
「アスカの仲間はね、みんな宇宙怪獣に滅ぼされてしまったの」
「そんな!」
 シンジはアスカの必死さの裏を見たような気がした。
「だからシンジ君、強制はしないわ…、でもね?、少しでも勇気があるのなら、立ち上がって」
 立ち上がる?
 シンジは言葉の意味を確かめた。
「自分で立って、自分で歩きなさい、でなければ、誰もあなたを必要としてはくれないのよ…」
「そんなの、今でも…」
「必要、だもの…」
 それはあまりにもか細く、頼りない声だった。
「綾波?」
「碇君と同じ、わたしも一人だから…」
「だって、綾波には父さんが…」
「宇宙人だから、必要とされただけ」
 そうか…
 アスカ、レイ、僕はみんなが抱えてる思いや気持ちなんて知らなかった、分かろうとしなかった。
 後悔する。
 満足げに頷く彼女に、シンジは顔を向けた。
「…えっと」
「ミサト、でいいわよ?」
「ミサトさん…」
 僕は…
 真摯な目を向ける。
「大丈夫よ?、何も心配することは無いわ、後はさっき言った、肉体の問題だけ…」
「そう、ですよね…」
 しょげてしまうシンジ。
 しかしミサトはいたずらっ子っぽくウィンクした。
「でもね?、幸いあなたの体には、あたし達と同じものが組み込まれていたから…」
「く、組み込まれてって…」
「碇司令、あの人よ?」
「父さんが!?」
「そ、ひっどい父親ね?、自分の子供に宇宙人の遺伝子組み込んだんだから」
 そんな…
 シンジは動揺して視線を漂わせた。
「でもいま迷っている暇は無いわ、決めなさい」
 ミサトはがしっと捉まえて覗き込んだ。
「なにを…、ですか?」
 怖々と訊ねる。
「このまま死ぬか、あたし達と同じになるか」
 アスカとレイを押し出すミサト。
「ちょ、ちょっと!」
「…」
「二択よ?、生き返りたいなら、どちらかの手を取りなさい」
「どうして…、ですか?」
 二人は黙って手を差し出している。
 レイは真っ直ぐ見つめて、アスカはそっぽを向くように軽く出して。
「どっちの命を分けてもらうか、あなた自身が決めなさい」
 シンジは二人を忙しく見比べた。
「そんな!、そんなの無理ですよ、決められる分けないじゃないですか!」
 二人の瞳を確認してから、シンジはミサトに突っ込んだ。
「碇君…」
「シンジ…」
 二人の声にもかぶりを振る。
「僕は、誰かの命を奪ってまで生き返りたくありません!」
 シンジは三人から逃げようと後ずさった。
「優しいのね…、でもダメよ?」
「え?」
「だって…」
 この子たちは、あなたが生きてくれることを望んでいるのだから…
 それはとてもとても優しい声だった。
「だから安心して、心を解放してあげて…」
 急にミサトの存在が希薄になっていく。
 ほら行くわよ?、バカシンジ…
 行きましょう、碇君?
 優しげな言葉が投げかけられた。
 同時に差し出された手に迷う。
「何やってんのよ、はやくつかみなさいよ」
「だめ、碇君、わたしの手を」
 さり気なく牽制し合う二人。
「あ、あの、ちょっと?」
 戸惑うシンジ。
「わたしと一つになりましょう?、わたしの命を分けてあげる…」
「だめよ、シンジはあたしと一つになるの、あたしの命で助けてあげるのよ!」
「どうして?」
 二人に訊ねるシンジ。
「どうして?、今まで見向きもしてくれなかったのに」
「…借りは作っておきたくないのよ」
「…絆、が欲しいから」
「「さあ!」」
「あ!」
 二人から同時に手を捉まれた。
「あああああ!、ちょっとなにやってんのよ!」
「これが温もりなのね…」
 赤と青が混ざり合う。
「ええ!?、ちょっと二人とも!」
「うっさい!」
「静かに…」
「うわあああああ…」
 シンジの中に二人が入り込んで来る。
 それと同時にシンジは、意識が広がっていくような感じを受けた。
 弾ける感覚。
 そして紫色の巨人が誕生した。


 閃光がやむ。
「爆心地にエネルギー反応!」
「宇宙怪獣を確認!」
「レイ、アスカも無事です、生きてます」
「ああ!」
 さらなる驚きが続いた。
「あれは!?」
 ゲンドウに耳打ちする冬月。
「宇宙人かね?」
「いや…、シンジだ」
 ニヤリ。
 ゲンドウは薄ら寒い笑みを浮かべて喜んだ。


 シンジ…
 碇君…
 二人の声?、テレパシーか。
 シンジは怪獣を見据えた。
 シンジの背後には、起き上がれないままの二人が居る。
 やらなくちゃ、今やらなくちゃみんな死んじゃうんだ。
 ジュワッ!
 構えを取る。
 そんなのもう嫌なんだよ!
 シンジ!、今のあんたの体を組成している物質は不完全なものなの!
 完全じゃ、ない?
 ええ、わたしとあなた、二つの遺伝子が融合した状態にあるから…
 違うわよ!、あたしとシンジでしょうが!
 どっちだっていいからさぁ…
 シンジは何が言いたいのか二人を急かした。
 くっ、バカシンジのくせに…、まあいいわ、この宇宙では3分しか保たないって言いたかったのよ!
 気をつけて…
 二人は光と共に、普通の人の姿に戻ってしまった。
 うわあああああ!
 シンジは雄叫びを上げて突っ込んだ。
 怪獣が半ば溶け落ちた腕を持ち上げた。
 どろり…、一気にはがれ落ちる肉、骨が見える。
 ブウ…
 掌が光った。
 ブン!
 くっ!
 伸びた剣に掌を突き出す。
 バキィン!
 展開された金色の壁。
「ATフィールド!、まさかシンジが!?」
 瓦礫の上を這い上がり、アスカは驚きに目を見開いた。
 壁にぶつかった剣は、そのまま押し返された。
 ボキィ!
 剣と一直線に伸びていた、根元の腕がへし折れた。
 フオオオオオオオオ!
 シンジの口から咆哮が上がった。
 勢いのままに突っ込むシンジ。
 ドゴォン!
 低く突っ込んだシンジの頭が、怪獣のドテッパラの紅玉にぶち当たった。
 ゴゴゴゴォン!
「ばかぁ!、なにやってんのよ、あんたわぁ!」
 倒壊するビル、降り落ちて来た瓦礫に、アスカは慌てて逃げ惑った。
 フルォオオオオオン!
 だがシンジはまだ止まらない。
「暴走…、しているのね」
「暴走!?」
 いつの間にやら、レイが傍らに立っていた。
 二人の眼前で、巨大な獣が絡み合う。
 シンジは怪獣を組み伏せると、その腹に拳を突き立てた。
 ガカッ!
 怪獣の漆黒の眼が光る。
 ドゴォオオオオオオオン…
 爆発が起こった。
「自爆!?」
 伏せて、爆風に堪えるアスカ。
 突き立つ十字架型の炎。
「シンジは…」
「生きてるわ」
 ズズゥン、ズズゥン、ズズゥン…
 その爆炎の中から歩き出て来るシンジ。
「あれがシンジの…」
「新しい体…」
 胸の中心に、アスカにもレイにも無かった、赤い玉が埋め込まれている。
 それは怪獣のお腹にあったのと同じものだ。
 その輝きが急速に衰え、消えた。
 続いて変身が解け、元のシンジの姿に戻る。
「あ…」
 そしてそのまま倒れ伏してしまう。
「碇君!」
「バカシンジ!」
 あつっ!
 アスカは驚き、レイはわずかに顔をしかめて後ずさった。
 足元が溶解してしまっている、物凄い熱量だ。
 シンジの体を包むパイロットスーツも、激しく炎を吹き上げていた。
 シンジの戦いは、今まさに始まったばかりである。



続く






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