学校である。
いつもの空気、いつもの時間。
だがそこにたった一人だけ違う存在が紛れ込んで来ただけで、穏やかな通学風景はまるきり違うものになってしまっていた。
誰なのだろう、どういった関係なのだろうかと、好奇に満ちた視線が彼女たちをまるごと捉える。
そう言った意味では、シンジやレイたちといったいつもの面子も、アスカ同様に日常の破壊に貢献していた。
「惣流アスカです、よろしく」
カカッと軽快にチョークで書く、黒板に書かれた文字の美麗さに、最初は外人なのかとコミュニケーションの取り方に苦慮していた男の子たちも安堵した。
だが、まだである。
「しっつもーん」
はい相田くんっとミサトが指差す。
「碇とはどういう関係なんですかぁ?」
それはいい質問ねぇとヤラしく笑う。
「惣流さん?」
「はい」
「言いたくなかったら、もちろん、拒否権の発動を許すけど?」
アスカは赤くなった上で、どもりながら口にした。
「い」
「い?」
「妹……、みたいなもんです」
「そう」
二人のレイに注目が集まる、一人はムスッとし、もう一人は我関せずと無関心を装っていた。
「加持さぁ〜ん」
聞こえた声に顔をあげ、加持リョウジは目を丸くした。
「アスカか?」
こりゃ驚いたなと、世話をしていた花壇から出て、加持はアスカを迎え受けた。
「戻って来たのか?」
「うん!」
ドンッとぶつかるようにお腹に抱きつく。
そんなアスカに苦笑する。
「おいおい、泥が付いちまうぞ?、それにしても女らしくなったなぁ……、っておいおい、ちょっと感激のし過ぎ……、って痛いぞ、痛いって、おいおいおいおいおい!」
徐々にぎちぎちと背骨が鳴り出す。
「加持さぁん、ほんとに会いたかったんだからぁ!」
「ってホントにそう思ってるのか!?、おい!」
「ずっとずっと会いたかったんだからぁ!」
そう。
「加持さんとカヲルのせいで、アタシの計画はめちゃくちゃよぉ!」
「おおおおお!」
死ぬ、死ぬっと手をさ迷わせる。
そんな二人を遠目に眺めて、シンジはカヲルに囁いた。
「ほんとにアスカって、加持さんのことが好きなんだねぇ」
「そうだねぇ」
ほがらかに肯定して勘違いを助長させておく辺り、悪党である。
「しかし、あのアスカがねぇ……」
感慨深そうにケンスケ。
「可愛くなったもんだなぁ」
なぁっとトウジに振ってみる。
「性格は悪いままみたいやけどなぁ、根性ババ色やで」
ばこっとその額に何かが当たった、それはアスカが投げたスコップだった。
「痛いやないけ!」
「うっさいのよこのバカルテットが!」
シンジは、酷いや!、っと傷ついた。
「僕がなに言ったっていうんだよぉ」
「自覚が無いのが一番タチ悪いのよ!」
まぁまぁととりなすヒカリである。
「鈴原も、アスカが可愛いってことは認めてるんだから」
「そ、そう?」
「ええ、アスカは可愛いって」
「ヒカリ?」
「よかったねぇ?、可愛くて」
「……怖いんだけど」
じりじりと追い詰められて行く。
何故なのかはわかるまい。
「ホンマ、かなわんで」
額を押える。
「お前も災難やなぁ、あんな女と一緒に暮らさなあかんやなんて」
「そうでもないよ……、そういうのは慣れちゃったし」
遠い目をする。
「ま、良いんじゃないかぁ?」
気楽にケンスケ。
「シンジはトウジほど嫌われてるわけじゃないだろ」
「なんやねん、それは」
「お前覚えてないのかぁ?」
呆れた顔つきで。
「外人の癖に日本語喋ってるとか言ってさんざん虐めてたの、お前じゃないか」
「そやったか?」
「酷い!、酷過ぎるぞトウジ!」
なんだかなぁと、後頭部を掻きつつ、シンジは離れた。
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