──なんなのよ、と彼女は呻いた。
シンジをネタにレイとジャレているマナの姿は、逆に見ればレイをダシにしてシンジとジャレているように感じられる。
気にし過ぎだろうか?
アスカはギリギリと歯ぎしりをした。
「なんなのよ?」
もう一度言う。
「なんなのよ?、なんなのよあの女は、ええ!?」
キーッとアスカはヒステリックに喚いた。
「アタシのシンジをなにやってんのよ!」
そんな姿に、ふうっと吐息を洩らして、肩をすくめたのはカヲルであった。
「醜いねぇ……、女の性というものは」
──ゲシ!
「うっさい!」
後ろ回し蹴りで吹っ飛ばす。
「くっ、敵は一体何人居るのよ!」
壁に張り付けられたカヲルには、答えることはできなかった。
きゃーっと嬌声を上げて、プールにどっぽんとお尻から飛び込み、飛沫を上げる。
今は体育の時間である。
「みんなええ乳しとん……、おおおおお!?」
なんで男子はバスケやねんとふてくされていたトウジであったが、そんな不満もアスカの登場によって払拭されてしまった。
「なんだよ鈴原……、おお!?」
「すげぇ!、あれっ、惣流!?」
「すっげぇ!、なんだありゃ!?」
「腰たっかー!」
「足なっげぇー!」
「胸でか!?」
「なんだよあれ!?」
「委員長なんか目やあらへっ」
ガスッとデッキブラシが突き刺さる。
「えっち!、すけべ!、へんたい!、どこ見てるのよ!、バカトウジ!」
さり気なく鈴原ではなくトウジと呼んでしまっている辺りに動揺が窺える。
ちょっとだけいい気になっていたアスカも、呆気に取られてモデル歩きをやめ、引いてしまった。
「ヒカリって、旦那を縛り付けるタイプなのね、ひゃん!」
変な悲鳴を上げて飛び上がる。
「な、なによ!」
お尻を押さえて振り返れば、レイが両指を突き出ししゃがんでいた。
つついたままのポーズで、むぅっと難しく悩んでいる。
視線は自分の指先を見つめていた。
「……ねぇ」
レイはアスカを見上げて、真剣に訊ねた。
「なにそれ?」
ちょっと怖くて引いてしまう。
「なにって、なによぉ……」
「なに食べたら、そんなになるの?、ねぇ?」
「ふつうのもん食ってるに決まってるでしょうが!」
「うそ!、同じもの食べてこんなに差が出るはずないじゃない!」
っと妹を身代わりに引っ張り出し、比較対照として差し出した。
「……さりげなく冷たい奴ね、あんたって」
どんっと怒った妹に突き飛ばされて、プールに落とされる綾波レイ。
「おぼれてんじゃない?」
「しらない」
とてとてと行ってしまう。
「どういう姉妹よ?」
「ああいう姉妹よ」
アスカは話しかけて来た少女に警戒心を剥き出しにした。
「惣流さんよね?、あたし、隣のクラスの霧島マナ、マナでいいよん♪」
脳裏に敵だ敵だと警報が鳴る。
「……惣流アスカよ、いきなり名前で呼べって、馴れ馴れしいのね?」
「うん、シンジ君のお友達には特にねぇ?」
むむっとなるアスカに対して、わざとらしく勝ち誇るマナである。
「また始まりましたね……」
「山岸さん!」
やっとの想いでプールの端に辿り着こうとしたレイの手先が触れたのは、水中よりぬぅっと現れたマユミの頭であった。
(手にっ、手に髪が絡んで!)
怖いよぉっと、ひ〜んっとなる。
ぬら〜っと水の底から浮かび上がって来たマユミは、黒い髪をまるで海藻のように漂わせたまま、すら〜っと動いた。
(どうして鼻から下を水から出さないの?)
別に沈めたままでも良いのだが、だとすると先の言葉は水中で発したのだろうか?
(だから怖いって)
いろんな意味でと、泣きそうになる。
「ねぇ、山岸さん、さっきのまたってなに?」
マユミはちらりと振り返ってから、改めて立ち上がった。
「マナさんの悪い癖なんですよ……」
髪をしぼるように纏める。
それから目で、ほらと注意を促した。
「シンジってば、困るよねぇ?」
マナである。
「あの調子だからさぁ、誰にだって、優しくて」
簡単に乗せられてしまうアスカである。
「どういう意味よ!」
「勘違いさせちゃってさぁ、酷いよねぇ」
「だから何が言いたいのよ!」
がるると唸るアスカに、マナは体を前に倒すようにしていやらしく見上げた。
「知ってる?、シンジ君ってね、結構レイちゃんに洗脳されてんの」
「へ?」
「シンジ君の好みってぇ、どんぴしゃレイちゃんなんだなぁ、これが」
「うそ!?」
「そういうわけだからぁ、惣流さんはぁ、かなり外してるんじゃないかって思うわけでェ」
ねっと胸をつつかれて、アスカはよろめき後ろに下がった。
「そんな」
その脳天に、ぐわぁんと『たらい』が直撃する。
アスカはよろけて、その場に倒れた。
ぐらりのどんだ。
……そんな様子を、一段落つくまで眺め切ってから、マユミはシメの言葉をレイへと吐いた。
「ね?、おもちゃいらずだとは思いませんか?、マナさんって」
シナを作って横たわる直前で苦悩しているアスカの肩を、くししとつついて喜んでいる。
確かにおもちゃなど与える必要がないかもしれない、自分で見付けて来るのだから。
そして見つけられてしまったアスカはと言えば……
「こんな胸、育てるんじゃなかったー!」
と、ついつい変な絶叫を上げてしまい、(−−#イヤミカと多くの反感を買ってしまったのだった。
続く
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