Asuka's - janktion:009
「ん……」
 朝である。
 アスカの顔には、ほつれた髪が纏わりついていた、寝苦しかったのか、目元の隈もやや酷かった。
 ……呻くように口にする。
「ベッド……、買わなきゃ」
「なんで?」
「眠れないのよ……」
「お布団じゃ?」
「……」
「でもベッドだと大きいし、先にユイお母さんに買っても良いか訊かないと」
「そうね……、って」
 がばっと布団から跳ね起きる。
「なんであんたがあたしの布団に!」
「ぬくぬくー♪」
「ってちょっとこら!、でてけってのよ!、くっつくな!、胸もむなぁあ!」
 脇を締めて背後からの攻撃に逃げ回る。
「あ、さきっちょ勃ってる」
 ──ガン!
「はぁはぁはぁ」
 っと肩で息をし、怒り立つ、その足元には、脳天を度突かれたレイがぷしゅうっと……
「なに考えてんのよ!、このばか!」
「むぅん、だってぇ……」
「えっち!、へんたい!」
「かるぅいスキンシップなのになぁ〜」
 ちぇ〜っとそっぽを向いて口を尖らせる。
「せっかく起こしに来てあげたのにぃ〜」
 そんなレイにぶっちんとキレる。
「んな起こし方はいらないのよ!」
「レイちゃんよりマシだと思うぅ〜」
「マシってなによ!」
「レイちゃんってば裸になって潜り込んで来るしィ」
「はぁ!?」
「シンちゃんのお布団にぃ、って」
 言ったとたんにアスカが消えた。
「早っ!」
 レイは立ち上がるのももどかしく、すっ飛んでったアスカの後を、四つんばいのままで追いかけた。


「んでもって、レイちゃん『いつもどおり』裸でシンちゃんに抱きついてたもんだからさ」
 けらけらと笑う。
「アスカちゃん、シンちゃんの胸倉掴んで起き上がらせて、寝ぼけてる顔引っぱたいたの」
「へぇ……」
「それでまた大喧嘩になっちゃって」
「ふうん」
 マナははぁっと溜め息を吐いた。
「いいなぁ、そんなとこ見られて」
「良いでしょう?」
 えへへと自慢する、そんな二人の横でマユミは偏頭痛を堪えていた。
(そういう問題ではないのでは?)
 はぁっと溜め息まで洩らしてしまう。
「それで碇君は?」
「今度は葛城センセにとっつかまってるよ?、もっと詳しく聞かせろって」
「はぁ……」
 今度は思い切り吐いてみた。
「不憫ですね……、碇君」
「そう?」
「みんなにおもちゃにされてしまって」
「それだけ人気者だってことなんじゃないの?」
「そんな人気はいらないと思いますけど……」
「そうかなぁ?」
「さしあたっては」
 マユミは恨めしげにレイを見やった。
「今日の練習は……、どうなさってくださるんですか?」
「練習?」
「ええ」
 お忘れかもしれませんがと前置きをした。
「わたしとマナさん……、少なくともわたしは、碇君に頼まれて来ているだけなんですよ?、練習がしたいと言われるので、お手伝いに」
「そだっけ?」
「そうなんです!、それなのに、ああ、それなのに!」
 うきーっと暴れる。
「碇君がいらっしゃらないのでは、わたしはなんのためにここに居るというのですか!?」
 こっそりと訊ねる。
「マユミちゃんって、実はおかしい人?」
「ときたまね?」
「今日は新刊の発売日なのにぃ!」
 面白そうに見守ってみる。
「マユミも素直じゃないのよね、ホントはシンジ君と一緒に弾きたくて来てるくせに」
「そうなの?」
「それなりに好きなんだよぉ?、マユミも、シンジ君のこと」
「マナも?」
「そりゃ好きですよぉ?、好きじゃなかったら、なんでこんなに重くて邪魔なだけのもの、わざわざ学校に持って来てまで付き合いますか」
「うん……」
「結構高いんだからね?、それに大事だし……、いたずらされないかって不安だし、けどやっぱりシンジ君とは弾きたいんだなぁ、これが」
「レイちゃんともですけど」
「あ、戻って来た」
 マユミは無視してヴァイオリンを手にしたが、頬がちょっとだけ赤らんでいた。



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