Asuka's - janktion:011
「あーっはっはっはっはっは」
 職員室、ひぃひぃと腹を抱えて笑っているのはミサトであった。
「いっつまでたっても面白いわ、シンちゃんは」
「……真面目なのよ、根がね」
 相手を務めているのはリツコである。
「だからあまりからかうのはよしなさい?、人格に障害が出たりしたら、どう責任を取るつもりなの?」
「そんなオーバーな」
「あら?、子供の大半は幼年期に受けた傷が元で性格が歪んでしまうものなのよ?、からかわれないようにしよう、笑われないようにしようと努めるようになって、杓子定規な、他人の顔色を窺うような子供になってしまうものなの」
「う……」
「あなたのそういうところ、直した方がいいわよ?、友達感覚も結構だけど、所詮は先生なんだから、どこまでも気を許してくれるなんてことはないんですからね」
「わかってるわよぉ……」
 なによぉとふてくされて机に突っ伏す、と、二人の会話に別の教師が割り込んで来た。
「葛城さん、先輩、もう授業始まりますよ」
「あら?、もうそんな時間?」
「大丈夫よぉ、うちにはすっごく優秀な委員長が居るから」
「葛城さん!」
 ショートカットの女性は怒鳴り声を上げた。
 まだ大学を出たばかりの女性で、肩が小さいからか、華奢過ぎて幼く感じられる。
「もう!、葛城さんがそんなだから、2−Aの生徒はいっつも騒いでばかりで」
「マヤ……」
「先輩は黙ってて下さい!、授業中は内職してるし、先生の言うことは訊かないし!、知ってるんですか!?、A組のカップル率って、校内ナンバー1なんですよ!?」
「そ、それは別に良いじゃない……」
「フケツですよ!、フケツフケツフケツフケツフケツ!、きっとあんなことやそんなことをやってるんだわ!、そうに決まってます!」
「マヤ、時間よ」
 さあっと追い払う。
「……」
 渋々、不満気に離れていく、まだ何か言い足りないらしいが、リツコの冷めた目をして睨み付けた。
 はぁ〜あとミサトが溜め息を吐く。
「あたし、あの子苦手なのよね」
「わたしもよ」
「え?、でも懐かれてるじゃない」
「懐かれてるからって、懐いて欲しいわけじゃないもの」
「冷たいのねぇ……、そんなだからあたしが嫉妬されるんじゃない」
 だってとリツコ。
「あの子、Mだから……、受け身なのよね、話しててもはいはい言うだけで面白みが無いし、張り合いも無くて」
「……」
 じゃああたしはっと訊ねかけてミサトはやめた、からかい甲斐があるからと言われてしまえば、ただの自爆になるからであった。


「まったくもう」
 そんなわけで、彼女、伊吹マヤは、非常に不機嫌にプリプリとしていた。
「葛城さんも葛城さんだけど、先輩も先輩よ、どうして葛城さんなんかと」
 喋るのかと、嫉妬している。
「葛城さんなんて、いらないのに」
 ほうっと妖しく吐息を洩らし上気した頬に手を当てた。
『先輩!』
『あら、マヤ』
『先輩、今日、先輩のお家に遊びに行ってもかまいませんか?』
『だめよ』
『え!?』
『だって、わたし、今日は帰らないから』
『ど、どこに行くんですか?』
『そんなの、決まってるじゃない』
『先輩……』
『今日は、あなたの部屋に泊めてくれるんでしょう?』
「なーんちゃって、なーんちゃって、きゃあ!」
 ドンッと人にぶつかってしまう。
「ご、ごめんなさい!」
「いったぁ……」
 当たったのはアスカだった。
「もう!、廊下ではしゃがないでよ!」
「だからごめんなさいって……」
「アンタばかぁ?、ってあんた先生?」
「え?、ええ……」
「先生がなにやってんのよ!」
「……」
「はっ!、馬鹿でスケベなガキばっかりだと思ってたら、先生までガキだったってわけぇ?、あんたみたいのが先生じゃ、生徒がバカばっかりなのも仕方ないわね!」
 マヤはあんまりな言い草にムッとした。
「な、なんですって!?、もう一度言ってみなさい!」
「何度でも言ってやるわよ!、このバカ!」
「誰がそんな話をしてるのよ!、あたしが言いたいのはね!、この学校の生徒が馬鹿なのはあたしのせいじゃないって言ってるのよ!」
「はぁっ!?、それが余所の子供預かってる教師の言葉ぁ!?」
「あたしの責任じゃないわよ!、……あなたその『髪』!、2−Aの生徒ね?、そうなんでしょう!」
「……」
「2−Aの生徒なんてみんなあなたみたいなのばっかりで、全部退学させちゃえばいいのよ!」
 パン!
 頬をはる音。
 ぶとうとしたアスカも、それを偶然通りかかって止めようとしたシンジも唖然とした。
 マヤの丸くなった目に映り込んだのは……
「か、葛城さん?」
 ミサトは倒れることを許さず、胸倉を掴んで引き寄せた。
「あんたね!、言っていいことと悪いことがあるでしょうが!」
「え、ええと……、シンジ?」
「あ、うん……」
 手のやり場に困ったアスカがシンジを認める。
 そのシンジもまた、どうすれば良いのか迷ってしまって……
「なにを騒いでるの!」
 そこに他の先生方がやって来たのは、非常に間の悪いことであった。



続く



[BACK][TOP][NEXT]