Asuka's - janktion:014
 ──屋上。
「つまり、なに?、シンちゃんは惣流さんの好きな人が用務員のおじさんだって思ってて、それで庇ってるの?」
「そういうことになるねぇ」
 こういう時の人選として、レイの選択は微妙であった。
「それで、渚君は放っておくの?、シンジ君のこと」
「……僕としても、手は講じたいさ」
 しかしと言う。
「でもシンジ君自身が今の状況を良しとしていて、なおかつ風評を気にしないたちであるとすれば、僕の口出しはただのお節介になってしまうんじゃないのかい?」
 本当に、とかぶりを振った。
「シンジ君は……、レイちゃんが居たからだろうね、頑固なのさ」
「頑固って?」
「レイちゃんを守るためなら、何を言われようともかまわない、そう考えなければやってなどこれなかったんだろうね」
 例えばと口にする。
「僕たちのことも、そうじゃないのかい?」
「……」
「こんな容姿だ、あからさまではないとは言え、少なからず悪く言われることもある、そんな人間と友達で居れば、一体どんな口を利かれることになってしまうか、想像できない訳じゃないだろう?」
 もちろんだと、レイは心の中で頷いた。
(味方をしたら、あたしと一緒に、みんなに嫌われることになる)
 それが怖くて、離れていった友人が、いくらも居る。
「でも」
 シンジ君はと比較する。
「何を言われることになろうとも、自分の気持ちが一番晴れる方向へと動こうとする、その結果敵を作ろうが嫌われようがおかまいなしだよ」
「それがレイちゃんのせいだっていうの?」
「せいってわけじゃないさ、でもレイちゃんを守ろうと必死になる内に培われたものなんじゃないのかい?」
 嘘よっと、大きな声が割り込んだ。
「アスカ?」
「惣流さん?」
 肩をいからせ、アスカは驚いている二人のことを睨み付けた。
「シンジが守ろうとして必死になったのはあいつじゃない!、あたしよ!」
「え?」
「へ?」
 アスカは胸に手を当てて訴えた。
「あんな子のにためじゃない!、シンジが傷ついちゃったのは、あたしを守ったせいだったんだからぁ!」
 そう言って、きびすを返して駆け出して行った。
 はてとと首を傾げて悩んでしまう。
「どういうことだろう……」
「どういうことなのかなぁ?」
 共に首を傾げてから、疑問を口に出す。
「でも……」
「なんだい?」
「うん……、考えたらって」
 目を合わせる。
「あたしたちって、どうして惣流さんがシンジ君のことを好きなのか、知らないんじゃない?」
 カヲルは確かにと頷いた。


「あ、ん、た、わ、ぁ、あああああ!」
「あはははは、わるい、葛城」
 ぎゅーっと首を絞められながらも加持は笑った、へらへらと。
 それが怒りの火に油を注ぐ結果に繋がる。
「あんたか!、あんたのせいか!」
「いや、俺のせ……、ちょっと待て、しゃべれん」
 と喋りつつ、手から逃れる。
「逃げるな!」
「言い訳させろよ」
 加持は首についてしまった痣の痕を撫でさすった。
「確かに、俺のせいって言えば俺のせいなんだろうけどな」
「なによ」
「いや……、俺がシンジ君たちが居る場所で煙草を吸ったからって、考えが足りなかったって話になるだけだろう?、なんでこんな騒ぎになってるんだ?」
「それは……」
 ミサトは答えようとしてそのまま言い淀んでしまった。
「なんでだろ?」
「……おい」
「あ、ええと、シンジ君が本当のことを話さなかったのはわかるのよ?、自分が話せば誰かが処罰される、それも退学とか、放校だなんて話になるのは酷過ぎるって、でもそれがあんただったとなると」
「だろう?」
 首を傾げる。
「いくらマヤちゃんが噛みついて来たとしても、俺はおふくろさんに頼まれて来てるだけの臨時のバイターなんだぞ?、首にされたからって困ることなんて何がある?」
 ミサトは一ヶ所だけ引っ掛かるものを感じてしまった。
「ちょっと」
「あ?」
「マヤちゃんってなによ?」
 ジト目で見やる。
「随分親しそうじゃない?」
「おいおい」
 からむなよっと押し返す。
「それより今は、シンジ君のことだろう?」
「そうね、今はね」
「……ま、そういうわけでな」
 強引に話を持って行く。
「冬月校長はそんなに頭の固い人じゃないからな、俺に犯人ですって名乗り出ろってんなら、それでもいいが……」
「なによ」
 う〜んと唸る。
「葛城ぃ」
「あによ」
「お前……」
 何かを言いかけて、やめる。
「いや、そうなのか?、そうなんだろうなぁ」
「なによぉ、気持ち悪いわねぇ」
 う〜ん、う〜んと一人で悩む。
「こりゃあ、面白くなって来そうだなぁ」
 面白がるなと、怒り出す。
 それでも加持は、にやにやにやにやと笑い続けた。



続く



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