Asuka's - janktion:018
「相変わらずねぇ……」
 リツコの面白がっているとわかる口調に、ミサトは酷い憤慨の仕方をした。
「昔っから変わんないのよ!、このブワァカわ」
 二人の攻撃に、加持はたじたじとなって、逃げにかかった。
「しかしこうして三人で呑んでいると、昔のことを思い出すなぁ」
 やぶへびになる。
「それって、あんたがリツコと浮気した時のこと?」
「おいおい……」
「そうよねぇ、居酒屋でつるし上げたんだっけぇ?」
「あれは」
 くすりとリツコ。
「ヤキモチ?」
「なっ、誰が!?」
「もう加持君とはなんの関係も無いんでしょう?、だったら昔の話なんてどうでも良いじゃない」
「あの時のあたしはこいつの彼女だったのよ!」
「なら加持君?、今日は泊めてくれる?」
「こりゃまた嬉しい申し出だなぁ」
「この子もおまけに付いて来るけどね?」
 と、轟沈しているマヤの背を撫でる。
 ん、うんっと、熱の篭った妖しい吐息が洩らされた。
「……リツコ、あんたって」
「慣れてるなぁ」
「あのねぇ」
 どうしてそこでタッグを組むのかと頭痛がして来る。
「本当に、あなたたちってお似合いよ、特にそうやっておもちゃを見付けた瞬間、からかわずにはいられないところなんてね」


「はぁ!」
 どんっと大きく腕を広げて背後に倒れる。
 それから立ち上がってしまった足を落として、今度こそ完璧な大の字になった。
「どうしたの?」
 風呂上がりのシンジは、タオルでがしがしと髪を拭きながら、のびのびとしているレイの様子に首を傾げた。
「つっかれたの!」
「はぁ?」
「あの人が居ると緊張するんだモン」
「朝はからかってたくせに」
 なにか言ったぁ?、と睨まれて、シンジはすごすごと引き下がることにした。
「怖いとこはそっくりだよなぁ」
「……近親憎悪?」
 背後からの声に飛び上がる。
「れ、レイ!、そこに居たの?」
 コクンとレイ。
「おかし、取って来たの」
 両手に一杯の袋菓子。
「それ、綾波の?」
「そう」
「……太ったらどうするんだろう?」
「また、ダイエットするの、一緒に」
 とことこと脇を通り過ぎて行ってしまう。
「ダイエットって……、あれのこと?」
 この間、ひどいことになってしまった、母のいたずらのことを思い出す。
「……もしかして、沢山持って来たのは、だから?」
 ばりっと袋を開ける音がして、ばりぼりと勢いよく食べる音が続いた。
 シンジは今の綾波なら、出されただけ食べるだろうなと想像し、レイの計略通りかと身震いをした。
 ──小レイに好かれた人間は、みな振り回される運命にあるのである。


「ただいまぁっと」
 アスカは片方ずつ靴を脱いだ。
「あら、おかえりなさい」
「あ、はい、ただいま帰りました……」
 言ってから、アスカはしまったと動転した。
「ううっ!」
 大袈裟に泣き崩れるユイである。
「アスカちゃんってば、どうしてわたしにだけ他人行儀なの!?」
「あああ、あの、その」
「シンジともレイちゃんともレイとも仲良しなのに!」
 くやしーっと喚く。
 おろおろとするだけのアスカに代わって注意したのはシンジであった。
「うるさいよ、母さん」
「し、シンジ!」
 慌てるアスカに注意する。
「アスカも騙されてないで、さっさと上がりなよ」
「だ、騙すって」
「ま、シンジ、それじゃあ母さん悪者みたいじゃない」
「嘘泣きのくせに」
「これはただ、アスカちゃんに早く馴染んでもらおうと思ってした『演技』なのよ」
「それがタチ悪いってんだよ」
 イーッだっと舌を出して台所へと去って行く母に呆れ返る。
 シンジは振り向いて訊ねた。
「どうしたの?」
 がっくりと床に両手をついてうなだれている。
「つ、疲れる……」
「うちはみんなあんな感じだからね」
 それよりとシンジ。
「カヲル君のところでなにやってきたの?」
 アスカの髪が、ぴんっと跳ねた。
 ピョンッと飛び起きる。
「あんたなに?、気にしてるワケ?」
「え?」
「ヤキモチ妬いてんの?、もう!、そんな必要ないのに」
「すり寄らないでよ」
 カヲルとのやり取りなど知らないシンジは、ただ気持ち悪く感じて逃げ腰になった。
「僕はただ、気になっただけだよ」
 そんなシンジに不満を抱く。
「むぅ〜、なにがよぉ」
「うん……、だってこの頃、時々レイも遊びに行ってるみたいだからさ」
「……」
「でもレイとカヲル君が二人っきりってとこ、想像できないんだよね、カヲル君ってどんな風にレイをあやしてくれてるのかなって、あれ?、アスカ?」
 ぷんすかと怒ってアスカは離れた。
(なによぉ!、バカシンジがもう!)
 どこまで良いお兄ちゃんで居る気なのかとふてくされる。
(なぁにがあやしてよ!、あたしは別に……)
 手のひらの上で転がされているような錯覚を受けて、アスカはよろめいた。
(うそ、あたし、甘えてる?)
 メールに電話に、あげくに相談を全部持ち掛けて、胸の内まで明かしているとなれば。
「むぅ……」
 あたしってっと思いかけて、素直になり切れず、アスカはそんなことないっと否定した。



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