「やあアスカ、おはよう、今日も好い天気……」
すうっと通り過ぎて行ったアスカの背中に、カヲルはシンジへと首を傾げた。
「どうかしたのかい?」
「さあ?」
肩をすくめる。
「夕べからあんな感じなんだ、なにか悩んでるみたい」
「悩み、か……」
「まだうまく馴染めないみたいだからね、父さんや、母さんにも」
「君のことは?」
「え?」
「シンジ君のことは、悩みの範疇には入らないのかい?」
「なんで?」
「彼女の想い人は、君だろう?」
やめてよね、っと手を振った。
「からかわないでよ」
「からかってなんていないさ」
「アスカはカヲル君の婚約者でしょう?」
「でもその話が嘘で塗り固めていただけのものだということは、もう伝えただろう?」
「そうだけどさ……」
でもなぁとシンジはそれでもごねた。
「だからって、なんで僕なのさ?」
「さあ?、それは彼女だけの秘密だからねぇ」
う〜んと悩む。
「やっぱり現実味がないんだよねぇ」
「そうかい?」
「うん、だってさ、カヲル君ならどう?、ずっと昔に、別の人にお嫁さんにしてもらうんだってはしゃいでた女の子が、何年か経って再会したかと思えば、今度は自分に向かって好きだったって言って来るんだよ?、受け入れられる?」
「それは……」
「僕には無理だよ、切り替えなんてできないし、第一好きって言われる理由がわかんない」
カヲルはその点に関しては追求を行った。
「好きになる側には、あるんじゃないのかな?、理由が」
「でも僕になかったら、好き合うって形にはなれないよね?」
「……あれだけ可愛い女の子でも?」
立ち止まってしまったシンジに、数歩遅れて足を止める。
「シンジ君?」
振り返り、カヲルは後悔した。
「可愛いかどうかなんて、関係無いよ」
「……」
「顔とか、髪型とか、格好とか、『肌の色』とか、『目の色』じゃない、そんなので人を好きになったり、嫌いになったりしたくない」
「……ごめんよ」
シンジはその言葉に我を取り戻したのか、良いんだと呟いてかぶりを振った。
「ごめん……、少し」
「好いさ、僕が無神経だっただけだよ」
「ううん、違うんだ……、昨日、加持さんに怒られてね」
カヲルはシンジから聞かされた加持の言葉に、それはそうだねと頷いた。
「お互い、少し馴れ合い過ぎて、無神経になりかけているのかもしれないね、僕もこの容姿のことが、君と友達になろうと思ったきっかけだったというのにね」
「うん」
「僕はそんな君の心、考え方に触れて友達になりたいと思った、そうだね、容姿や格好はきっかけにはなっても、理由にはならない」
「うん……、でもまだ僕はどんな人なら好きになれるのか、そんなの全然わかんないんだけどね」
明るく笑って、歩き出す。
「そうなのかい?」
「うん……、でもこれだけは言えるよ、僕に好かれたいからって猫を被ったり、自分を隠したり、変えようとする人とだけは絶対に嫌だ」
「……」
それはと口にしかけて、カヲルはやめた。
──碇レイ。
シンジが誰のことを話しているのか、わかり過ぎるほどわかってしまったためである。
[BACK][TOP][NEXT]