「わたしがお肉を嫌いなのには、それはそれは悲しい想い出があるからなの、わたしは昔、とても酷い施設に預けられていたの、職員さんは食材費を横領して、食事の質を落としていたわ、当然、出る食事には肉が入っていなかった、いつも野菜ばかりだったわ、でもある日、その人は告発されてお縄についたの、悪は必ず滅びるのね、新しい職員さんは、可哀想にとみんなにお肉を食べさせてくれたの、それはそれは大きなステーキだったわ、でもわたしはそれを口に含んだ途端に吐いてしまったの、長く野菜ばかりを食べさせられてしまったせいで、とてもお肉の脂には我慢ができなくなっていたの、それ以来お肉は苦手……」
大レイは小首を傾げてシンジに訊ねた。
「どう?」
「どうって……」
引きつってしまうシンジである。
「それで、僕に何を言わせたいのさ?」
「さあ?」
「なんだよそれ?」
「レイちゃんにそういうことだからって言われたの」
「レイに?」
「うん」
(なんだそれ?)
「レイちゃんって、お肉嫌いだからねぇ〜」
またアスカをからかうつもりかと思いつつ、疑問点を突きつける。
「でも施設ってなに?」
「たぶん、ほら、前に言ってたじゃない?、もしここに引き取ってもらえなかったら、あたし、施設に入ってたかもしれないって」
「うん……」
「それで気になったんじゃないかなぁ?、しばらくそんな本ばっかり読んでたから」
「……また変なことを」
変かなぁとレイは苦笑した、気にしようとしないシンジの方がおかしいのだ。
「まぁあんまり害はないから良いんじゃない?」
「良いのかなぁ……」
っとテーブルを見やると、「あんたも苦労したのねぇ、ほら、もっとお豆腐食べなさい、あたしの分も食べていいから」「ありがとう」などと、号泣するアスカに薦められるままに湯豆腐をつついて、ほくほくとしているレイが居た。
「だぁーーー!」
騙されたぁっと机をひっくりかえそうとして、さすがにできず、ふんぬぅと動けなくなる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
重いのよ!、っと蹴っ飛ばす。
「あんたも一緒になってからかって!、なによ!、そんなにあたしが嫌い!?、邪魔なの!?」
「ん〜ん?、そんなことないよぉ?」
何故だかアスカのベッドに転がっているレイである。
「まあ気にしない気にしない……、シンちゃんを好きだって言う子はみんなおんなじ目に合ってるんだから」
「す、好きって……」
「なに今更赤くなってるの?」
不思議そうなレイに呆れ返る。
「あんたがおかしいのよ……、なんでそんなにオープンなわけ?」
「アスカほどじゃないと思うけど……」
引きつった笑いをレイは浮かべた。
「そりゃねぇ、あたしだってねぇ、ここに引き取ってもらってすぐの頃はぁ、苦労しましたよぉ?、ってもう話したけどぉ、シンちゃんを独り占めしようと思ったらぁ、虐めるしかないんだよぉ?、レイちゃんのことぉ」
できる?、っと問われて、アスカは迷った。
「それは……」
「無理でしょう?、無理だモンねぇ……」
レイはしみじみと口にした。
「強敵、って意味じゃレイちゃんって極悪だよぉ?、虐めたら本当に悪い気がしてくるもん、レイちゃんってシンちゃんだけで、シンちゃんが居なくなったらどうなっちゃうかわかんないって雰囲気あるし」
「あんた……」
アスカは初めて見せられた翳に戸惑った。
「あたしはねぇ、一人って慣れてるから、我慢できるけど、ほら、前に戻るだけって感じがあるから」
「……」
「でもレイちゃんって、『そこ』を越えちゃってる部分があるの、わかんないと思うけど、一人はもう嫌って、だから」
「もう、いいわよ……」
唸るような声に、レイはごめんと謝った。
「ほんとにごめん……」
「いい……、気にしないから」
そんなレイに、怒ることもできなくて……
アスカは椅子に腰掛けると、そっぽを向いて、頬杖を突いた。
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