そうしてミサトが教室に向かっている頃、アスカはアスカで怒鳴り散らしていた。
「だぁあああ!、こんなんできるかー!」
ヒステリーを引き起こして、手にしていた糸を床の上に叩きつける、が……、糸は糸だけに、ふわりと落ちただけだった。
その糸を拾い上げ、小レイは言った。
「あんたバカ」
「キー!、くやしー!」
「ふっ、不器用大王なのね」
なにやってるのっと訊ねる大レイに、シンジは苦笑して教えてやった。
「あやとりだよ」
「あやとり?」
「そう、あやとり」
それがねぇっとシンジ。
「アスカがさぁ、あんまりからんでくるもんだから、じゃあってレイがね」
「じゃあ遊んであげるって?」
「うん」
はは……、とレイは引きつった笑い方をした。
(だんだん、入れ代わって来てない?)
面倒を見てやろうとしていたはずなのに、これではどちらがかまってもらっているのかわからない。
「惣流さんって……」
「なに?」
「……」
「?」
「ま、いいか」
「なんだよぉ、わかんないよぉ」
不満を言うシンジを、いいからいいからと適当にあしらう。
(目的のために手段を誤って相手のペースにはまりこむタイプ?)
そして翻弄された揚げ句に、あれ?、っとなるのだ。
きっと。
……レイはそんなことを漠然と感じた。
「でも意外ー、レイちゃんってあやとりできるんだねぇ」
「名人級だよ……」
シンジは何気に答えてしまってから、改めてレイの物言いのおかしさに気がついた。
「意外って、どうして?」
「あ、うん……」
言いづらくて、シンジの耳に口を寄せる。
「ほら、レイちゃんって、『ああ』でしょう?、あやとりなんて、一人でやれる遊びじゃないし」
「ああ……」
シンジは確かに口にし辛いことだよなぁと了解した。
「うん……、ま、『父さん』にね」
「え゛……」
「得意だからさ、父さん」
「ああ……、そう」
聞くんじゃなかったと後悔する。
「力じゃ母さんに勝てないからねぇ〜、手先ばっかり器用になって」
「……」
一、シンジ君はどうなるのかなぁ?
二、ユイお母さんって、そんなに?
三、おじさまって……
色々とない交ぜになって、どう反応して良いやらわからなくなる、っと、パンパンと出席簿を叩く音が皆を動かした。
「はいはいはい、席に着いてぇ」
はいそこっと、アスカを指差す。
「お姉ちゃんにかまってもらいたい気持ちはわかるけど、さっさと座る!」
え!?、っとアスカは喜色を浮かべた。
「先生!、いまあたしのことお姉ちゃんって言った?」
なぁに言ってるのよと、ぬか喜びを指摘する。
「惣流さんの方が誕生日は後でしょう?」
「だぁっ!、それでもあたしがお姉ちゃんなの!」
そんな無茶なと誰もが思う。
「でもねぇ……」
にやにやとしてミサトはからかった。
「それでもやっぱり、惣流さんよりレイちゃんの方がお姉さんっぽくない?、落ち着いてるし、仕方ないわねぇって雰囲気持ってるし」
ぷっ、くすくすっと、多数の失笑がこぼされた。
みんなの肯定に赤くなる。
「先生!」
「ミサトで良いわよん☆」
「わよんじゃなくてぇ!」
「アスカ、うるさい……」
小レイの物言いにムッとする。
「なによ!」
「もう、授業時間なのよ?」
やれやれとこれみよがしに、小レイは溜め息を吐いて見せた。
「また次の時間に遊んであげるから」
「そーーーじゃなくてぇ!」
「じゃあ、はい、飴玉上げる」
すぅううううっと引くように息を吸い込む、そして。
──可聴領域を越えた罵声に、ガラスがびりびりびりびりと固く震えた。
そしてみんなが、耳を傷めて押さえている中……
「レイちゃん、学校におかし持って来ちゃだめよぉん☆」
「……いや」
なにごともなかったかのように、二人は言葉を交わしていた。
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