Asuka's - janktion:034
 ──今日から日記を付けることにした。


 あたしの名前は惣流アスカ、ちょっと前までラングレーってのが付いてたんだけど、今日、正式に戸籍から外れた。
「改めて、お世話になります」
 テーブルに両肘を突いて、組み合わせた手で顔を隠しているのがゲンドウおじ様。
「……問題無い、全てはシナリオ通りだ」
 シナリオって、なんだろう?
「そうねぇ、アスカちゃんもうちの子になった以上は、野望の一つも持たないとねぇ?」
 キッチンからの声、そう口にしたのはユイおば様だ、今はボールに入れた小麦粉を水で溶いている最中だ。
 朝ご飯用の、ホットケーキの準備らしい。
「野望……、ですか?」
「ええ、ちなみにレイの夢はシンジのお嫁さんになること、レイちゃんの夢はシンジに女の子として認知されること」
「はぁ……」
「ん〜、じゃあこうしましょう、アスカちゃんの夢はお隣りの家を買い戻してシンジと一緒に暮らすこと」
「え゛、そ、そんな……」
「照れない照れない、言うだけなら勝手なんだから」
「……」
 ……この人、ニガテだ。


「ん〜〜〜?、あたしの夢ぇ?」
 咥えたパンをもしゃもしゃと『呑ん』で行く。
「そうよ」
「ん〜〜〜……、ちょっと違うかなぁ?」
 ……さらに新しいパンへと手を伸ばす、綾波レイ、こいつもなんだか色々とあって、ここに引き取られて来たらしい。
 顔だけ見てれば女の子なんだけど、体はまったくの男の子に見える、着ている物のせいじゃないとあたしは思う……
「エッチ……」
「……」
「アスカちゃんってばぁ、そんな目で見られてもぉ、あたし困っちゃう〜
 ……こいつはおば様にどっか似てる。
「ま、冗談は置いといて」
「早くしなさいよ」
「あたしの夢は、女の子って意識してもらえるようになることじゃなくて、意識するようにさせることなの」
「……どこが違うのよ?」
「違うよぉ?、ぜんぜん違う、あたしはね、シンジ君が初めて女の子を意識するようなきっかけになった女の子になるのが夢なのよ」
「……」
「なによぅ」
「……」
「ふんだ!、どうせ今は『足り』てませんよぉだ」
 もしゃもしゃもしゃもしゃサラダをがっつく、これでどうして、自分に女の子だってのを意識させる魅力があるって思えるんだろう?
「でもいつか気付くわ」
「わっ!」
「その全てに関するイメージには、根底にわたしの影があるってことを」
「いつからそこに居たのよ」
 じーっと見られた、うう、こいつってニガテ。
 ──碇レイ。
 この家では唯一本当にシンジの妹……、のはずなんだけど、聞けば生まれた月が三ヶ月のズレ。
 同学年なのに双子じゃない……、こいつにもなにかあるらしい。
「さよなら」
 ……。
 どこに行くんだろう?、って思ったら、シンジの部屋に上がって行った。


「……」
 悲鳴が聞こえて、いつものようにシンジが現れた。
 ──碇シンジ。
 あたしの一番の人……、のはずだったんだけど。
「なに見てるんだよぉ?」
「べっつにぃ?」
「……そのメモは、なに?」
「気にしない気にしない」
「するよ、なに書いてるんだよ」
「気にするとハゲるわよぉ?」
 ううっと怯んだ、実はちょっと気にしてるな?、おじ様の額って広いしなぁ……
「なんだよぉ……」
「あんたもおじ様みたいに」
「ややややや、やめてよね!、僕は父さんみたいに毛深くなったりしないんだ!」
 ……一体どこの話をしてるんだろう?
「エッチ……」
「……」
「何を考えていたの?」
「それはあんたでしょうが」
「……アスカが苛めるの」
「苛めてるのもあんたでしょーがー!」
 うがぁっとキレて見せると、これ見よがしにシンジに抱きつきやがった。
 こーいーつーはー……、っと、いけないいけない。
 いつか血管が切れそうな気がする、こめかみ辺りの。
 ……脳の方はもう大分イッてるかもしれない。
「気にしてハゲるのはアスカの方じゃない?」
「あんたは能天気過ぎるのよ!」
「てへー」
 笑って逃げやがる綾波レイ、だめだ、こいつらのペースに付き合ってると身が持たない……
 おかげで夜は、ぐっすり眠れているんだケドさ。


「おっはよー」
「おう」
「おはよう」
 レイに挨拶を返したのはジャージと委員長、もといスズハラとヒカリ。
 でも認識としてはジャージと委員長。
「なにやってんの?」
「アンケートの集計、シンジも見るか?」
 そう言ってノートパソコンをこっちへ向けたのがメガネヲタク。
 アイダとか言ったっけ?
「アンケートって、今度はなんのアンケートなのさ?」
「それがなぁ」
「おはよう」
 入って来たのは渚カヲル。
 白い髪に白い肌に赤い瞳、ウサギを思わせるのは細身ながらに肉付きの好い体形をしているから。
 でも……、あたしは知ってる、こいつ、イタチ並みにタチの悪い奴だって。
「おや、なんだい?、みんなで僕の顔を見つめて、照れるじゃないか」
 ……あたしは、即座に直感した。
 こいつが、なにかやったんだって。



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