Asuka's - janktion:042
「あら?」
 ぷりぷりと頬を膨らませて、ただいまぁも言わずに階段を上っていたアスカに、ユイは何があったのかと首を傾げた。
「どうしたの?」
 ぷっと吹き出し、レイは答えた。
「アスカ、ミサト先生に似てるってシンちゃんに言われちゃって」
「葛城先生に?」
「それで怒っちゃってるんです」
 はぁんとユイは納得した。
「でも『ミサトちゃん』よりは奇麗に部屋を使ってくれてるし、まだましだと思うんだけど」
 えっと声を上げてレイは驚いた。
「ミサトちゃんって?」
「ああ、ミサトちゃんのお父さんとうちのお父さん、ちょっと昔、仕事でご一緒したことがあったのよ、その時にね、ちょっと預かってたことがあったのよ」
「へぇ……」
「ミサトちゃん、十四歳だったと思うけど、あの頃は大変だったのよぉ?、お父さんとお母さんが離婚しちゃったすぐ後で」
「え?」
「って、ああ、わたしが話すことじゃないわね」
「あ、あの……」
「さあてと、洗濯物をたたまなくちゃ」
「って、おーい……」
 レイは捨て置かれたような感じになって困ってしまった。
「そんな中途半端な……」
「だからって、訊くのも悪いでしょ」
 シンジに叱られて、渋々諦める。
「はぁい」
 一方、アスカはかなり本気で怒っていた。
「なによ加持さんのバカ!」
 バンッと鞄を壁に投げ付ける。
『おいおい、それじゃあ俺は、未来のアスカだなって感じで、葛城と付き合ってたってのか?』
 むぅうううううっとさらに怒りにかられて頬を膨らませる。
 さらにカヲルの言葉が追い打ちをかける。
『ということは、アスカの恋が成就するためには、シンジ君の守備範囲に葛城先生が入っていなければならないと?』
『『『あり得ないし』』』
「どういう意味よぉ!」
 枕を殴打し、憂さを晴らす。
『あらぁん、そんなことないんじゃない?、ねぇ?、シンジくぅん?』
 抱きつかれて、胸を押し付けられて、赤くなって慌てていたシンジの顔にも腹が立つ。
 ミサトのような女性に憧れを持つシンジは嫌だが、あるいはそこまで『堕落』しなければならないのかもしれないと考えると。
 ──ゾッとする。
「うう……、あたし、あんなのになるのぉ?」
(なんで加持さん、あんなのと付き合ったりしたのぉ?)
 うらみまぁ〜す♪、と口ずさみ、涙を流す、泣き笑い。
 かと言って、シンジの守備範囲にミサトが入っていないとすれば?
 まさかと思う、妹二人のどちらかとミサトを比較して、そういう意味で『あり得ない』のだと断定されてしまったのだとすれば?
「あたしにどうしろってのよぉ……」
 さめざめと泣く、と。
「ふむ、確かに難しい問題だな」
「おじさま!?」
 何故か机の下の空間に納まっていた。
「な、なにしてるんですか!、そんなところで!」
「うむ、なに、ちょっと記録を取ろうと……、あ、いや、なんでもない」
 アスカはゲンドウが素早く背中に隠した『計測器』に目を細めた。
「おじさま……、おばさまにちくりますよ?」
「む……、よく『ちくる』などという日本語を知っているな」
「え?、標準語じゃないですか」
「いや、標準語ではないと思うが……」
「って護魔化されませんからね!」
「むぅ」
 本気で困る。
「ではこうしよう」
 ゲンドウは交換条件を持ち出した。
「君にとある秘密を教えよう」
「秘密?」
「そうだ」
 にやりと笑む。
「どうして加持君が、葛城君に絡もうとするのか、聞きたくはないかね?」
 アスカは息を呑んでしまった。
 それは非常に、興味深い話だったからである。



[BACK][TOP][NEXT]