Asuka's - janktion:051
 むぅっと頬を膨らませ、マヤは対面の席から身を乗り出した。
 余程感情が鬱積していたのだろう。
(なに!?)
 なんなのっと思いながら話を聞いていた。
 元々原因はそこにいるシンジなのだ、シンジのせいで自分はこんなにも追い詰められていると言うのにと、彼女は『どうして』という言葉一つに、無数の苛立ちを込めて頭をぐちゃぐちゃにしてしまっていた。
「先生!、もっとちゃんとしてください!」
「ちょ、ちょっとマヤちゃん……」
「他の生徒の保護者の方からもどうなってるんだって問い合わせが来てるんですよ!?、そんないい加減なことしてないで、ちゃんと指導したらどうなんですか!」
 パラパラと拍手が起こりそうになる、だがリツコにギロリと睨まれて、皆はその手を引っ込めた。
「あのねぇマヤちゃん?」
 ミサトはなるべく刺激しないように言葉を返した。
「でもねぇ?、もう丸く収まっちゃってるのに、引っ掻き回したって仕方ないでしょう?」
「どこがですか!、全然収まってないじゃないですか!」
「周りは、でしょう?、それはあたしたちの手間であって、この子たちが謝って回ることじゃないじゃない」
「でもその二人が原因なんじゃないですか!」
「じゃあどうしろっての?、退学にでもしろっての?」
 マヤはぐっと唸ってしまった、その通りですと言い掛けて、リツコの冷めた目に気がついたからだ。
(だからあの時退学にしておけば良かったのに!)
 そうすれば何も問題など起こらず、全て平穏無事に済んだのだとマヤは憎んだ。


 職員室を追い出され、二人は共に溜め息を吐いた。
 そのおかしさに微笑み合う。
「カヲル君でも溜め息を吐くことがあるんだね」
「君に出会ってから後悔することばかりだからね」
 失敬と謝りつつ告げ方が悪かったねと言い直す。
「卑屈な自分を正すためには、世に拗ねていた自分の姿を見つ直さなければいけないだろう?、でもそれはとても勇気のいることだ、醜い自分を認めなければ、決して前には進めない、そんなストレスが付きまとう、どうしたって嫌にもなるさ、大体僕には君のような、笑顔を守りたいだなんて目的意識が無かったんだからね?、ただその都度逃げ回るためだけに策を弄して来た、今はそのツケが回って来ているだけなのさ、だから堪えなくてはいけないんだけど……、これがなかなか難しい」
 特にとシンジの環境を羨んで見せる。
「僕には感情を吐き出せる相手が居ないからね」
「カヲル君……」
「ごめん、愚痴に過ぎないね、大丈夫さ、シンジ君が付き合ってくれたおかげで、少しは発散できたから」
「ううん、ごめんよ、僕、カヲル君がそこまで思い詰めてるだなんて思ってなかった……」
「ごめんよ、シンジ君、ただの愚痴だよ、君を悩ませるつもりじゃなかったんだ、聞いて欲しかった、それだけだよ」
「うん……」
「ありがとう、僕に付き合ってくれて」
「カヲル君……」
「シンジ君……」
「僕で良かったら、いつでも言ってよ、相手になるから」
「ありがとう」
「って頬赤らめてんなぁああああああぁあぁあぁあぁあぁ!」
 
──がすぅ!、ずしゃ!、ガン!
 側頭部に飛び蹴りを食らったカヲルは奇麗に吹っ飛び廊下を滑って柱の張り出しに頭をぶつけ、そのままやや錐揉み状に一回転して飛んで窓を突き破ってダイブして消えた。
「あああああ……」
 慌てるシンジの背後でふぅふぅと荒く息を吐いているのはもちろんアスカである。
「人が心配してたってのに!、ホモってんなぁ!」
 ──このアスカの叫びが尾を引いて。
 また新たな騒動の種が蒔かれたのだった。



続く



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