Asuka's - janktion:056
「ってな話、知らなかったでしょ?」
 リツコは聞かされた話に対して、少し感心した様子を見せたが、それは内容に対するものではなかった。
「どこからそんな話を聞き出して来るんだか」
 ふふんとミサト。
「もちろん、マナちゃんからよん☆」
「……」
「結構口軽いのよね、っても、悪口になっちゃうことは言わない子だから、安心して」
 別に注意するつもりはないとリツコは誓った。
「友達の好いところを自慢したがるタイプだって言いたいんでしょ?」
「正解☆、でもまぁ、霧島さんは疑ってたけどねぇ」
「え?」
「山岸さんのことだから、多分好いように受け取って都合の好い方向に解釈して都合よく脚色して都合よく浸ってるんじゃないかって言うのよ」
 ああとリツコは気がついた。
「そう言えばそうね、確か似たようなことがあった気がするわ」
「ってかねぇ、シンジ君に関しては大抵そうよ、なんでか好意的に解釈しようと思えば都合よく解釈できることばかりしてるから」
「でもほとんどが偶然?」
「そりゃそうよ、シンジ君だってただの悪ガキなんだから」
 ケケケと笑う。
「だから二分化するのよね、シンジ君の評価って」
「一面だけ見れば頼りになるけど、一面だけ見れば暴力的」
「だからね、霧島さん、気になって訊ねてみたんだって、それでやっぱり案の定だったんだってわけなのよね、シンジ君が山岸さんのことを知ってたのは、単に音楽教室で聞かれて、誰のことなんだろうと思って確かめて、あああの子かって覚えてただけなんだって、放課後の音楽会だって、めずらし物好きの霧島さんがシンジ君たちに近づいて、それならって山岸さんを引っ張り込んだのが本当らしいし」
「シンジ君が山岸さんの名前を上げたの?」
「ううん、霧島さんが山岸さんが楽器弾けるってこと知ってたみたいよ?、ついでに点数稼ぐつもりだったんだって、最初は」
「点数?」
「クラスに暗い子が居る、なんとかしてあげる、そうするとシンジ君は見直してくれる」
「ああ……」
「ついでにシンジ君も協力してくれるだろうから、もっと仲良しになれるんじゃないかってね?、でもあの性格のせいで、途中から本気になっちゃって、今じゃ真面目に親友になっちゃったらしいわ」
 根は悪人じゃないのよねと評価する。
「でもそれがシンジ君が落ちつくきっかけにどうしてなったの?」
「それがねぇ」
 面白がってぱたぱたと手を振る。
「山岸さんって、妄想激しくって凄いのよ!、だから本気で信じてるわけ、王子様は居るってね?」
「それが?」
「だからぁ、山岸さんは雰囲気的に一番近いシンジ君に期待してんのよ、それで色々と仕方ないなぁって口出ししてるわけ、それがまた的確なもんだから、なるほどなぁって毒されてんのよね、シンジ君は」
 リツコはようやくなるほどと理解した。
「つまりあの子はシンジ君を理想の王子様に仕立て上げようとしている魔女なわけね?」
 ミサトは腹を抱えて爆笑してひっくり返った。


「なぁんで喧嘩の理由が痴話喧嘩だなんて考えられるんだろ?、ほんっとわかんない頭してるわ」
 そうですかとマユミは冷たかった。
「マユミぃ、怒んないでってばぁ」
 ねぇっとじゃれつくように背後から首にからむ。
「髪が乱れます」
「つれないんだからぁ」
 ねぇんっと頬をぷにっとつつく。
「ぷくっとしてるぅ」
「怒ってるんですっ」
 本当に頬を膨らませている。
「ほんとに……、渚さんのことはともかくとして、あの人のことはマナさんの問題でしょう?、碇君にまで迷惑かけてどうするんですか」
「む〜ん、あ、でも喧嘩の原因作ったのってマユミでしょう?、渚君から聞いたよ?、マユミがシンジ君に何か言ったらしいって」
「それは……、碇君が気付いてらっしゃらないから、注意はしましたけど」
 にやんっとマナ。
「つまりぃ、マユミにも責任あるわけだ」
「あのですねぇ……」
「運命共同体」
「嫌な響きです」
「愛は地球を救う」
「その愛を冒涜するような真似をしたんですよね、確か」
 いやんっとマナは身をよじって腰をすりつけた。
「はぁ……、まあ、碇君が何か考えてくださっているとは思いますけど」
「シンジ君が?」
「はい」
「なんで?」
「知っていて放っておけるような方ではありませんから」
 そっかなぁとマナは首を捻った。
「自分で何とかすればって言われそうなんだけど……」
「そう言っても、手を差し伸べてしまうのが碇君でしょう?」
 マナはさらにさらに、そっかなぁと首を捻った。
「でもそれって何気に最低じゃない?」
「え?」
「性格知ってて誘導するのって」
「そうでしょうか……」
「それにそれって、なんだか利用してるって感じもあって気が引けるしなぁ、それにあんまり迷惑かけるのって、それはさっきマユミに言われちゃったか」
 ぺロッと舌を出すのだが、この時点で二人の感性はおかしかった。
 マナは迷惑をかけながら、今更と言ったところで変に悩むし、逆にマユミは、迷惑をかけるなと言いながら、騒動に引き込むように指示しているのだから。
 その一方で、レイは小レイに対して、一つの疑問を抱いていた。
「あの……、ね?」
 恐る恐る訊ねる。
「あの時……、どうして止めたの?」
「あの時?」
「渚君とシンジ君が喧嘩してたとき、アスカが止めようとしたのに」
 レイは簡単なことだと姉に答えた。
「お兄ちゃんは嘘が嫌いだから」
「え?」
「でもお兄ちゃんは、あの人の嘘だけは許すの、それはとても優しい嘘だと知ったから、前の喧嘩で」
「……」
「だから受け入れているの、腹が立って、殴ってしまいそうになっても、きっとあの人のことだから、なにか考えがあるんだと信じて……、でも、わたしはそれが嫌い」
「レイちゃん……」
「どんなに優しい嘘でも、嘘は嘘、嘘は誰かを傷つける、誰かでなくても、自分を傷つける、だから嫌い、だからお兄ちゃんに怒ってもらったの、お兄ちゃんはきっとみんなのお兄ちゃんだから」



続く



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