「じゃあ」
「うん」
「ばいばーい」
「……」
「……」
最後の二人は小レイとアスカのコンビである。
小レイが口を開かないのはいつものことだが、特に今日は先のこともあって、まだ優れない顔つきをしていた。
アスカはアスカで早く行けという雰囲気を露骨に振りまいている、カヲルは苦笑して去ることにした。
(でもあれだけ大声で僕たちの行動に嘘があったと宣伝したんだ、それなりのリアクションがあっても良いはずだけどね)
そのための準備をしておくかと一人で決める、カヲルはファンの子からしっかりとケイタの動きを聞いていた。
盗み聞きや聞き取り調査の行動のほとんどを把握している。
(敵のホームグラウンドで行動するにしては迂闊だね)
無論そのようなことに長けた中学生を育てることこそどうかしているのは承知している。
ただもっと立ち回りの上手い人間を送り込むべきだったのではないかと思うのだ。
(我が一門ながら情けない)
これはこれで虐めるネタになるかと心のノートにメモしておく。
そんなカヲルが見えなくなって、四人は一度に歩き出した。
「なによぉ、いつまで暗い顔してんのよ?」
「……」
「アンタばかぁ?、そんなにカヲルが信じられないの?、って言うか、きっとお兄ちゃんが勝つって信じてたから、くらいは言えないの?」
頭の後ろに手を組んでわざと煽り、アスカはちらりと振り返って見た。
小レイの顔を覗き込んでいたレイがかぶりを振る。
「はぁ……」
だめかぁとアスカ。
「まあ実際大怪我したわけだしねぇ」
「なんだよぉ」
「あんたが心配させ過ぎなのよ!」
「でもカヲル君がやろうって……」
アンタもバカ!、っと指を差す。
「怪我をしたんだから心配されて当然でしょうが!、だったらもうちょっとだけ頭働かせて、怪我なんてしないように注意しなさい!」
「うわぁ……、アスカ、お姉ちゃんみたい」
「あたしは精神的に大人なのよ!」
「やってることは子供だけどねぇ〜」
なにおぅっと拳を振り上げてレイを脅す。
シンジはレイの代わりに小レイの傍に立って囁いた。
「ごめんね、レイ、心配かけちゃって、でもどうしてもやらなくちゃいけないって思ったんだ、そういう時もあるんだ、だから、ごめん」
小レイはようやく顔を上げた。
「良い……、我慢するから」
「レイ……」
「あのおじさんも言ってた、わたしはお兄ちゃんの人形じゃないって、お兄ちゃんもそう、わたしのお人形さんじゃない、だから我慢する」
「ありがとう……」
シンジは微笑みを浮かべると、珍しく自分からレイの手を握ってやった。
驚きに目を丸くして、慌てて兄の顔を見上げ、そこに安心できるものを見付けて、レイはぽっと頬を染めた。
顔を真っ赤にして俯いてしまう、それでもシンジの手だけはきゅっと握り締める。
「あーーー!」
「ずっこい!」
叫んだ二人はお互いの顔を見合わせた。
ぐっと拳を脇に引く。
『じゃんけんほい!、あいこでしょ!、しょっ、しょっ、しょっ!』
「勝ちぃ!」
「あ〜〜〜、このグゥが、グゥがぁ!」
「へへぇんだ、シンジぃ」
ごしごしとスカートのお尻で手を拭いて左手を貰う。
「ふふぅんだ」
「むむむむむ」
一人悔しげにしていたレイだったのだが、急になにを思い付いたのかにやんと笑った。
「ここもぉらい!」
「ああっ!?」
シンジの背中に抱きついた。
「ちょっとそんなの反則!」
「え〜〜〜?、でも前はちょっとなぁ……、さすがに恥ずかしいし歩きづらいしィ……、あ、でもお姫様だっこは可?」
「不可!」
「不許可……」
アスカはようやく機嫌を直したかと思ったが、それについては触れずに口にした。
「ほら!、レイだってこう言ってるじゃない!」
「レイちゃん酷い!、お姉ちゃんを裏切るのね!?」
あうあうと姉と妹を見比べて困る小レイ。
シンジはレイとアスカの二人に感謝した。
(ありがと……)
その目の優しさに気がついたのか、アスカとレイは頬を染めた。
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