「そう、わかった、ありがと」
携帯電話をしまい込みつつ、ミサトはアスカたちに教えてやった。
「シンジ君が見つかったわ」
即座に反応を見せるアスカである。
「どこよ!」
「バスで移動中よ、行き先は多分、霧島さんの家ね」
「家ぇ〜?」
「そうよ、この近く、あの子お父さんが別荘代わりに買ったって言うコテージを改造して住んでるの」
「どうして?」
「さあ?、そこまでは……」
でもねぇとミサト。
「一人暮らしの女の子が、男の子を誘ったわけかぁ……、こりゃあ指導の必要ありかな?」
おいおいと加持。
「そりゃ野暮ってもんだろ」
「え?、嫌ねぇ、止めやしないって」
ぱたぱたと手を振る。
「ちゃんとしたリードの仕方ってのがあるでしょう?」
「それが野暮だって言うんだよ、葛城のリードなんてろくなもんじゃないだろうが、ここは俺が」
どっちもどっちである。
「しかしまぁ、意外だな」
「なにがですか?」
カヲルの問いかけに、加持は答えた。
「あのシンジ君がだぞ、誤解されても仕方のないような行動に出るなんてな」
「そうですか?、僕はシンジ君ならそうなることもあり得るだろうなと予想していましたよ、泣きつかれでもすればシンジ君に拒否できるはずがありませんからね」
いいえと小レイが口を挟んだ。
「やっぱりお兄ちゃんも、ただのケダモノだったということよ」
「にしてはレイちゃん無視されてたじゃない」
ムッとする。
「無視されてない」
「まあ、恥ずかしいって逃げ回ってただけだけどさ、シンちゃん」
む〜んっとレイは唸りを上げた。
「やっぱあれかなぁ?、自分の妹に感じるみたいな抵抗感が無いと、シンジ君も行っちゃうのかなぁ?」
「じゃあ惣流さんはどうなるのよ?」
「アスカって面倒臭いし」
「どーゆー意味よー!」
「だからぁ、色々と考えなくちゃいけないこととかあってぇ、下手に手出しなんてできないじゃなぁい」
ぶぅっとアスカは頬を膨らませた。
「じゃああんたはどうなのよ?」
「どうって?」
「あんただってシンジのこと好きなんでしょう?」
ん〜〜〜、でもねぇっと、レイはぽりぽりと頬を掻いた。
「あたしとシンちゃん、血が繋がってるし」
「え?」
「綾波さん?」
「へ?」
ああっとレイは口にする。
「言ってなかったっけ?」
しかしその中でただ一人、カヲルの苦笑だけが目に付いた。
「渚君は知ってるんだ?」
「シンジ君に聞いたわけじゃないよ」
「シンちゃんは言わないよ、まあ、誰から聞いたのか訊かないけど……」
苛つくアスカに説明する。
「あたしのお母さんって、子供が作れない体だったの、それでね、ユイ母さんから卵子を貰って、あたしを産んだんだって」
「そうだったの……」
「はい、だからあたし、『イデンシ』じゃちゃんとシンジ君の妹なんですよね」
「それじゃあ君の疾患は、それが原因のものなのかな?」
「さあ?、そこまではわかりませんけど……、そうだと嬉しいかも」
「訊いてもいいかい?」
「だって、そうなら、これってあたしがユイ母さんの子供だって証だし、レイちゃんのお姉ちゃんだって証拠だしね」
柔らかに微笑むカヲルである。
「他人ではない、その証は形として欲しいものだからね」
「うん」
明るく笑う。
「だから、嫌だったけど、今でもちょっと気にしてるけど、でもこの髪の色、今はちょっと気に入ってるの、好きになれた」
腰に腕が回った、振り返れば小レイだった。
ぎゅうとしがみついている、そんな妹に、レイは優しく微笑んだ。
「じゃ、行こうか?、シンちゃん迎えに」
夜の小道は怖かった。
特に民家のない場所だけに、電灯も設置されておらず、月と星明かりだけが頼りとなると、足元もおぼつかない状態に陥ってしまう。
「こんな場所に住んでるの?」
「うん、だから朝早いんだ……」
──沈黙。
『あ、あの!』
今度は見事にハモッてしまった。
「ええと……」
「その……」
「えっと……」
「あの……」
『あはははは!』
「な、なに緊張してんだろうねっ、あたしたち!」
「そうだよね!、ただちょっと寄ってくってだけなのに」
──静寂。
「ごめん!、嘘だ!、僕、いま色んなこと考えてた!、えっちなことばっかり考えてた!」
「ううん!、あたしだって、あんな誘い方して、期待させちゃってるし!」
お互いとんでもないことを言い合ってしまったと、口篭ってしまう。
真っ赤になって。
「シンジ君が謝ることなんてないよ……」
「でも……」
「誘ったのはあたしなんだから」
「でも変なこと考えてるのは僕だし」
「けど考えない方がおかしいと思うし」
「そうかな?」
「そうだよ……、だってあれじゃあ、そういうことしようって誘ったみたいだもん」
「大胆だよね……」
「そうなんだけど……」
ううっと、今更ながらに恥ずかくってしかたがない。
「でもあのままバイバイって、なにかヤだったし」
「わかるよ」
「え!?」
「いや!、そう……、いう意味だけど」
繋いでいる手をギュッと握る。
その意思表示に、マナはさらに俯いた。
「うん……」
後はもう無言で歩く二人である。
(あああああ……)
(きゃあああああ……)
血が上り過ぎてパニクッてしまい、わけがわからなくなっていた。
と、ようやく木々が減り始めた。
「あ、あそこ?」
「うん……」
道の先、夜の闇がさらに黒いものによって遮られていた、その形は家だった。
二人は同時にごくりと喉を鳴らした、緊張が極限を迎える。
家に入ったらどうなるか?
お互い闇雲に想像する。
痛みにも気付かないほど、互いに手を握り締める。
(どうしよう……)
(どうしよう?)
心臓がばくばくばくばくと音を立てる、緊張感が頂点を目指して高まって行く。
そして達した瞬間を狙い済ましたかの様に。
「きゃあ!」
「うわぁ!」
二人は別の小道から飛び出して来た少年に、抱きつき合って驚いた。
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