「うう、僕汚れちゃったよ、最低だ」
ぶぅっとむくれる。
「わたし、汚くない、奇麗だもの」
「はいはい」
小レイに組み付かれたまま、ジタバタと床の上をもがいていたシンジを助けたのはレイだった。
今はふくれている妹を膝の上に乗せて機嫌を取っている。
「で、お兄ちゃんとのでぃ〜ぷなキスの味はどうだった?」
「おいしかった」
「綾波ぃ〜〜〜」
情けない声を出すシンジに、小レイ並みに膨れた面を晒す。
「なぁに?、お兄ちゃん?」
「な、なんだよもう、からかわないでよ」
「からかってると思ってるんだ?」
「……違うの?」
「ずるいと思ってるの!」
マナともしたくせにとチクチク虐める。
「あ〜あ、ずっと一緒に住んでるあたしが全然してもらってないのになぁ」
お姉ちゃんと小レイは髪を擦り付けるようにして甘えて誘った。
「お姉ちゃんも『一緒』にしてもらいましょう」
「あ、それ良い」
「よくないよ!」
懸命に喚く。
「まったくもぉ、ホントに油断も隙も無いんだから」
「油断?、隙?」
「うん」
ふうんとレイは首を傾げた。
「じゃあ、いつもは警戒してるんだ?」
「え……、まあ、ちょっとは」
「じゃあどうして油断したの?」
「え?」
「油断するようなこと、考えてたんでしょ?」
マナのこと?、と探るような妹たちの視線に対して、シンジははぁっと諦めた。
「近いけど、ちょっと違うよ」
一番下の妹に対して、罪悪感に満ちた目を向ける。
「昔のことを思い出してたんだ」
「昔?」
「うん……」
シンジは空を見上げて口にした。
「僕がまだ、レイを邪魔者扱いしてた頃の話だよ」
(ムサシ……)
マナは軽く落ち込んでいた。
「だからぁ、マユミぃ、怒んないでよぉ〜〜〜」
一晩がかりで機嫌を取ってもまるで相手をしてくれないマユミの様子に、これは根深いなぁとすっかりくたびれ切っていた。
「だからさぁ、ムサシがあんまりあれなんでぇ、ちょっと勢いついちゃったって言うかぁ」
「……それで愛してる、ですか」
「うう……、虐めないでよ」
本気で怯える。
「そりゃ抜け駆けしちゃったのは悪かったって思ってるけどぉ」
マユミは不機嫌の度合を深めた。
「調子付いてしまっただけ、なんてことはわかってます」
「へ?、じゃあなんで怒ってるの?」
「……自分で考えて下さい!」
──わかるわけがない。
(ああっ、あのような生本番っ、きっと一生お目にかかれる機会なんて!)
こちらはそれほど深刻ではない様子、……なのだが。
(はぁ……)
苦悩の原因はムサシにあった。
「ムサシ……」
始業に随分と遅れてやって来た幼馴染は、一瞥をくれただけで言葉を返してはくれなかった。
マナが落ち込んでいるのは、ムサシをそうしてしまった、自分に対する罪悪感から来るものだった。
──はぁっと深く溜め息を洩らす。
(これが有名な少女漫画のあれなのかなぁ……)
告白は勇気がいるという奴なのかと、理不尽な洗礼に心苦しさを増す。
こんなことになるから、友達のままで居たかった、やや変則的にはなっているが、おおむね状況を正しく認識させてくれるパターンではある。
マナはマユミに借りた恋愛小説の内容まで引き合いに出して、落ち込むための材料にした。
(こんな風になるくらないなら、うんって、付き合うって、そういう風に『我慢』しようってキモチ、アリだよね……)
だがそれを許さない者が居た。
「霧島、居る?」
「アスカ……」
マナは自分を呼び出しに来た意外な人物の登場に、目を丸くして驚いた。
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