でもこの視線はちょっと……はっきり言って、恐いんだ。
学校、今日の体育は男女混合でプールの日だ。
「碇君の肩、奇麗……」
白くて、滑らかで、なで肩。
女の子っぽくて嫌いだったが、レイはそれを奇麗と言う。
「なんや、お前、綾波に何をしたんや?」
「そうだよ。えらい目つきでこっち睨んでるぞ?」
ははははは……やっぱりそう思う?
シンジも背を向けてしまっている。
恐くてレイのことが見れないのだ。
「あ、こっち来るぞ?」
「悪いなシンジ? ワシら逃げるさかい、頑張れや」
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ!
気合いを入れる。そのシンジの肩が「つつ……」っと指先で撫でられた。
ぞく!
「ひゃ! な、なに? 綾波……」
レイの細い指先が、シンジの肩に触れている。
「奇麗……」
「え? あ、そうかな……」
心臓がバクバク言っている。
どん!
「あ、悪い」
はしゃぎ回ってた連中がぶつかって来た。
シンジはよろめき、レイはそれを抱き留める。
シンジの両腕の、肩近くに触れている綾波の指。
水の中だからか? 妙に温かさを感じてしまう。
まずい!
どっきん。どっきん。どっきん……。
焦るシンジ。
レイの目の前には、真っ白な肩口がある。
吸い寄せられていく綾波。
かぷ。
何かが押し付けられた。次いで吸われるような感触。
ええ!?
混乱、続いて来たのは……。
カミ……と言う、遠慮がちの痛さ。
何やってんだよ。綾波!
シンジの脳裏に、昨日の記憶が蘇って来た。
ま、まさか僕食べられちゃうの!?
さっきまでの興奮もどこへやら、今度は一気に寒くなる。
カプ……。
今度は大胆に、大きく開いた口で咥え込まれた。
牙が当たってる……。
でも歯を立てるつもりは無いらしい。
し、舌で舐めてる? あああああ!? きっと味見してるんだ!
シンジは恐怖で凍り付いた。
シャギーかかった髪が揺れている。
水で濡れて、張り付いている。
隠れている頬が真っ赤になってしまっている。
「おおー、シンジの奴!」
「なんちゅうことしとんねん!」
「まさにいや〜んな感じだよな!?」
「ケンスケ、なにやっとんねん。カメラ回さんかい!」
「もう回してるよ」
「さすがや!」
違う、違うんだ!
心の中で泣き叫ぶ。
これはそんなんじゃないんだよ!
だがその様子は、どう見ても感極まっているようにしか捉えられない。
汗の味? ううんきっと碇君の味……。
少しシーツの香りに似ているかもしれない。
当たり前ね、だってあれは碇君の……碇君の。
ペロペロと舐める舌がだんだん大胆になっていく。
綾波さん。碇君、今は授業中なのよ!?
でも委員長の洞木ヒカリさんは、パニックに陥って声もかけられない。
こんなとこみんなに気付かれちゃったら!?
とっくに気付かれているのだが……。
やっていることは犬と同じでじゃれているだけ。
だがシンジは恐怖に固まっている。
やっだぁ、綾波さんって、そういう子だったの!?
碇君だいたぁん。
違う、違うんだ。誤解なんだぁ!
誰にも届かない心の声。
冷たいプールの中で、シンジは肝を冷やし続ける。
結局シンジが解放されるのは、授業の終わりを告げるベルが鳴ってからになるのであった。
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