どっと疲れた……。
 机に突っ伏すシンジ、その目の前に人影が立つ。
「あ、綾波!?」
「……お弁当、頂くから」
 一応ことわりに来たらしい。
「あ、うん。わかったよ……」
 離れてくれたのでほっとする。
 ほっと? 安心したの、僕?
 少し自己嫌悪に浸ってしまう……。
 酷い奴だよな、夕べは「襲われてもいい」なんて言ったくせに……。
 ちらりとレイを見ると、どことなく沈んでいるようにも見えてしまう。
 碇君の作ってくれたお弁当、碇君、何を入れてくれたのかしら?
 わくわくわく……っと、動いてしまいそうな体を無理に押さえつけている。
 シンジはふうっとため息をつくと、考えを改めて立ちあがった。
「綾波……」
「碇君?」
 今まさに弁当箱を開けようとしていたレイの前に立つ。
「お弁当、一緒に食べようよ?」
 え?
 迷惑、なのかな?
 碇君……。
 ぽうっとシンジを見上げるレイ。
 じいっとレイを見下ろすシンジ。
 いやぁ〜んな感じィ……。
 クラス中の視線が、二人にドロドロと注がれていた。


「つっかれたぁ……」
 シンジは自分の部屋のあるマンションにたどり着いていた。
「帰りも着いてこられたら、どうしようかと思ったよ……」
 レイの夕べの姿を思い出す。
 狼女とか、そんな感じなのかな?
 じゃ、先帰るから……。
 そう言って教室を出ていってしまったレイ。
 おいシンジ!
 お前一体何をしたんや、なにを!
 してないって、別に……。
 そんな会話を、今日は一日くり返していた。
 シンジは鍵を開け、中に入る。
「ただいまぁと言ったって……」
 誰もいない……え!?
 シンジは何気に通り過ぎかけた玄関に慌てて戻った。
なんだこりゃ!?
 下駄箱の横に置いてあったのは特大の犬小屋であった。
 しかも札には「Rei」の三文字。
「は、はは……」
 汗が吹き出す。
 覗き込む。
「ん……」
 小さく丸くなっているレイが居た。
 その瞼が開き、赤い瞳がシンジを射貫く。
 沈黙。
 再び瞳は閉じられた。
「んん……」
 寝返りを打つように、白く細い顎を見せる。
 シンジは立ち上がると、心に決めた。
 見なかったことにしよう。
 そして自室へと引き上げた。


 疲れていると夢を見ないなんて、そんなの嘘だ……。
 シンジは激しく、うなされていた。
 カプ!
 お尻に噛付かれる感触。
「いったぁ! 何すんだよ綾波!!」
 だがそこにいたのは、赤い髪の……。
「誰!? うわ!」
 飛び付かれる。その少女のお尻の先で、尻尾がパタパタと揺れている。
「やめて、やめてよ。誰なんだよぉ!」
 顔中ペロペロと舐め回されてる。
 なのに相手の顔はよく分からない。
「碇ィ、なんちゅう羨ましいことしとんねん!」
「男だったら涙を流すべき状況だね、これは!」
「碇君、フケツよぉ!」
 どうして見てるだけなんだよぉ! 誰か助けて、助けてよ!
 ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ。
「うわあああああああ!
 はっ!
 跳び起きよう……としてできなかった。
「う、重い、うわ!」
 レイが布団の上に乗っかって伏せていた。
 そのお尻で、青い尻尾がばたばたバタバタと音を立てている。
「あ、綾波! やっぱり狼女だったの!?」
「いいえ、違うわ、わたしは犬女よ
 なんだそりゃ!?
「うわ、やめてよ綾波、やめてよぉ!」
 ぺろぺろぺろぺろぺろ!
 顔中べたべたにされるシンジ。
 結局夢でも現実でも、うなされる事に大差はあまり無いのであった。



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