何とか綾波を引きはがし、お座りさせる事に成功したシンジであったが……。
「つまり何? 僕に飼えって事?」
正座して、真顔で「うん」と頷く綾波。
「だ。だめだよ。そんなの!」
シンジは強く拒絶した。
「どうして? 抜け毛も少ないし下の世話も必要ないし、散歩に連れていってくれるだけでいいのに……」
「そんなの当たり前! ……って、なんだよ散歩って? まあそれはともかく、女の子と一緒に住むなんてそんなの」
指をモジモジと遊んでいる。
「……部屋は、空いてるみたいだけど」
「そんな問題じゃないってば!」
レイはすっくと立ち上がった。
うわっ、怒らせちゃったかな!?
びくびくと脅えて距離を取るシンジ。
「ど、どうしたのさ?」
「時間よ? 行きましょう……」
「え? 何の時間だよ」
「散歩」
がっくぅ……
激しく肩を落とすシンジであった。
もう時間も遅く、夜中である。
確かにさぁ、このぐらいの時間に犬の散歩してる人って多いけど……。
前をてくてくとレイが歩いていく。
あ、公園だ……。
レイが襲われていたあの公園だ。
散歩のコースだったんだ……。
レイの散歩のコースが分からないので、無言で後を着いていく。
一応、女の子なんだよな。
顔を舐められた事を思い出し、シンジは今更ながらに赤くなった。
顔は洗い服も着替えている。だがまだどこか生臭かった。
うわ!
ぼうっとしていたシンジは、急に立ち止まったレイに慌てた。
「ど、どうしたの……さ」
聞くまでも無かった。
「焼き鳥の屋台……はっ! だ。だめだよ今そんなに持ち合わせが」
しまった。お金がないって言えば良かったんだ!
レイの瞳が急に潤んだ。ねだるようにシンジを見上げる。
ぱたぱたぱたぱたぱた……。
スカートの下でなにかが揺れていた。
がっくし……。
「三本だけだよ?」
シンジはそのもの欲しそうな顔に勝てなかった。
とほほー、今日は晩ご飯抜かなくちゃ……。
ハグハグと焼き鳥を頬張りながら歩くレイ。
食べ終わったのか? レイは最後の串をシンジに渡した。
それをゴミ入れがわりの袋にしまい込むシンジ。
またしてもレイは歩き出す。
ブロロロロ……。
正面からバイクが走って来た。カブだ。
う〜〜〜……。
え?
レイの喉から威嚇するような声が漏れだした。
まさか!
がしっと、シンジはその首に腕を回して押さえつけた。
案の定、レイはバイクに向かって突進しようとしていた。
あ、危なかった。犬って車とかバイクに突っ込んでくんだよな? 何故か……。
レイはまだばたばたと暴れている。
「うおーいシンジィ、なにやっとんねん」
ぎくぅ!
聞き覚えのある声に、シンジは固まり凍ってしまった。
「なんや、また綾波といちゃついとんのか?」
「まさにいやーんな感じだよなぁ?」
ジーッとカメラが回っている。
「うわ、やめてよ。こんなとこ撮らないでよ!」
「タイトルは……そうだな、美少女拉致監禁ってとこでどう?」
「どう? じゃないよ! 綾波も何とか言ってよ!」
「……別にさらわれてなんていないわ」
ほっと、シンジは息をついた。
よかった。まともに答えてくれて。
もがくのをやめるレイ。
「さ、帰りましょう」
「え?」
「ご飯の時間だから」
「さっき食べたのはぁ!?」
はっ!
シンジはギギギッと音がしそうな感じで振り返った。
「……今の会話」
「ばっちり撮らしてもろたわ」
「な? トウジ」
あああああ! 最悪だぁ!!
よりによってこの二人に聞かれるなんて、この二人に見られるなんて!
シンジは頭を抱えてしゃがみこんだ。
そんなシンジを、いやらしい目で見守る二人。
「安心せいやシンジ、わしら口は堅いしな?」
「それで綾波、シンジとはどういう関係なんだよ?」
だ。だめだ!
シンジは口を塞ごうとしたが遅かった。
「犬とご主人様よ」
はううううう……。
碇シンジ、彼の受難はまだ続く。
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