「えっと……綾波にはどこで寝てもらおうか?」
レイには自分のスウェットを貸し、二人は寝る準備に入っていた。
「いい、小屋があるから……」
「え? で、でも玄関じゃ寒いし……」
とことことこ、ガラ!
全く意に介さず、シンジの部屋の戸を開ける。
「あ……」
そこに何故だか移動している犬小屋。
「じゃ、先に寝るから……」
あうう……。
シンジは呆然として、レイが潜り込んでいくのを止められなかった。
はぁ……飼うって言ったって……。
寝返りを打って犬小屋を見やる。
「犬の飼い方なんて、知らないし……」
部屋の片隅、まるでそこだけ闇が溜まっているように暗かった。
いや! 綾波は一応人間の姿をしているじゃないか。
台所に立っていた姿を想い出す。
そっか、でもしつけはしないといけないよな……。
これ以上、勝手に食べ物を漁られてはたまらない。
しつけ……しつけか?
どうやるんだろう? 犬だと首輪とか付けて……首輪!?
ぼん!
何かを想像したらしい、ちなみに参考文献はケンスケから借りたいかがわしい本。
ち、違う、そんな畜生道に落ちてる場合じゃなくて……。
顔をばふっと枕に押し付ける。
ご飯の前には「おすわり」とか「お手」?
ちょこんと座るレイ。
お手、と言うと、両手を揃えて差し出し、茶碗を受け取る。
か、可愛いかもしれない……い、いや、そうじゃないんだよ!
か────! 何考えてるんだよ。まったく!
とりあえず明日はどうするかを考える。
お弁当とか……綾波の分もいるかな? やっぱり。
ぷはぁっと、枕から顔を上げる。
「汗臭いや……」
匂うかな?
ちらりと見ると、小屋の穴から白い足が伸びていた。
はうあっ!
鼻血が出そうになって鼻を押さえる。
せ、狭いんじゃないのか!? あれ!
それに暑いのか、足で足を掻いている。
そう言えば、シャワー浴びてないし……。
犬は風呂嫌いだって事を思い出した。
やっぱり入れてやんなきゃダメだよな……入れて……入れてやる!?
ポタリ……。
とうとう熱い物が鼻から滴り落ちた。
違う、入ってもらうんだよ! 自分で!!
あうあうあうっと手を伸ばし、ティッシュを漁る。
はたと、赤い光に気がついた。
小屋の奥の暗闇から、赤い瞳がシンジを見ている。
はっ!
ティッシュに手を伸ばそうとしている手を止める。
い、いま僕って、何をしようとしているように見えるんだろう?
「鬼畜……」
ぽそっと、呟く声が聞こえた。
「ち、違う僕は!」
「いいけど、もう遅いから静かにしてね?」
ちがうんだぁあああああ!
「はっ!」
飛び起きる。カーテンを閉め忘れた窓には朝焼けの空。
「は、はは……夢、そうだよな、何もかも夢だよな?」
シンジは吹き出していた脂汗を拭いさった。
部屋を見渡しても、小屋のあった形跡などどこにもない。
「よかった……さ、何か食べないとな……」
立ち上がり、戸に手をかける。
一瞬、この向こうには綾波がいて、やっぱり夢じゃなかったなんてと、脅えてしまう。
「そんなこと、ありえるわけないじゃないか……」
ガラ……。
シンジは開けて、……やはり力尽きた。
「夢じゃなかった……」
「おはよう、碇君」
レイが何やら、ごそごそとやっている。
「……はぁ、何をやってるのさ、綾波?」
「朝ご飯……」
昨夜の味噌汁の残りだろう、それをどんぶりご飯にぶっかけている。
「早く歯を磨いて……食べましょう?」
「ああ、うん。わかったよ……」
猫まんまじゃないよな? なんて言うんだっけ……。
寝ぼけた頭で考える。
とりあえず、冷蔵庫の中を漁るのだけはやめてもらおう……。
真剣にそう考えてしまうシンジであった。
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