「それじゃあ、行ってきます……」
 誰もいないはずの部屋に言葉を残す。
 そんなシンジをキョトンとして見ているのは綾波だ。
「なにやってるの?」
「え?」
「昨日も、言ってた……」
 ようやく挨拶のことだと気がついた。
「癖でさ……」
「そう……」
 何のことだか分からないので取り敢えず無視する綾波。
 二人並んでの初登校。
 昨日は先に行ってしまった綾波、今日は慣れたので照れなくてすんだシンジ。
 でもレイはそわそわとしていた。
 理由は昨日と違うものだ。
「お昼が、楽しみ……」
 いつもの夕飯の残り物ではない、シンジは今朝、ちゃんとお弁当を作り起こしていた。
 もちろん夕べの綾波の暴挙のために仕方なく、ではあったのだが、しかし……。
「うん。急いだから、あまり大したもの作れなかったけど……」
 そんなレイの反応がちょっと嬉し恥ずかしい。
 え!?
 小指になにかが絡んで来た。
 かるく指を絡めたのは綾波だった。
「な、なにしてんだよ!」
「だめ?」
 相変わらずの上目使い。
「だめ、じゃ……ないけど」
 すねたように尖った口先にも焦ってしまう。
「首輪の代わり……」
「え?」
 レイは理由を説明した。
「自制が、効かないの……」
 はっと思い出した。夕べレイがバイクに突っ込んでいきそうになった事を。
 そっか、保護者がいるから安心してくれてるのかも……。
 僕が居るからと言うほど自惚れはしないし、もちろん主人が居るからなどとは恥ずかし過ぎて口にもできない。
「……うん。じゃあしょうがないよね?」
 レイの腕の振りに合わせて、シンジも腕の動きをぎくしゃくとさせた。
 その分歩き方も堅くなり、レイの歩調にピッタリと……合わなかった!
「ちょ、ちょっと待ってよ綾波!」
 グイグイグイグイグイ!
 どんどんどんどんと、まるで走り出しそうな勢いで引っ張られてしまう。
「どこ行くんだよ! 学校は!?」
 ついでに右に左にと、特に門柱や電信柱に向かおうとする。
「ごめんなさい、わたし生まれて3年目だから忙しないの」
 三年目ってけっこう大きいんじゃないのか!?
 いつの間にやら手は思いっきり握られていた。
「綾波、落ちついてよ。綾波!」
 はしゃいでるように先々走る。嬉しいのか楽しんでいるのか? その頬はわずかに上気していた。
「いやぁんな感じぃ」
 じーっと、カメラを構えるケンスケが居た。
 わずかな驚きと共に見送るクラスメート達。
 すれ違う瞬間、みな我が目を疑っているような感じがあった。
 シンジはそっちの方が気になってしまっていて、そんなレイの様子には全く気がついていなかった。



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