体育の時間。
「鈴原の目ってなんかやらしぃ〜〜〜」
 今日の体育は男女別。
 女子は遠泳で、男子はマラソン、運動場を10周だった。
 はっはっはっはっはっ……。
 シンジはプールの脇を通る時、なんとなくレイの姿を探していた。
「きゃ────! 碇くぅん☆」
 しかし返って来たのは女の子達の黄色い嬌声。
 シンジはうつむき、赤くなる。
「碇君って、もっと大人しいのかと思ってたけど……」
「けっこう凄いのねぇ」
 平々凡々を絵に描き、薄い色で着色した背景に滲んでしまったような少年が碇シンジであった。
「ねぇねぇ、綾波さん?」
「……なに?」
 酷く不機嫌そうなレイ。
 視線は冷たくシンジを睨んでいる。
「碇君のどこがよかったの?」
 そんなレイが、真っ赤になって動揺を見せた。
「優しく、してくれた。所……」
 きゃ────☆
 誤解は一層、深まった。


「じゃ、次、わたしの番だから……」
 逃げ出すようにスタート位置に並ぶレイ。
 それを肩越しに確認している最中に、シンジは親友に捉まった。
「お? なぁんやセンセ、またのぞいとったんかいな?」
「ほんと、そんなに好きだったとは思わなかったよな?」
 ふたりともいやらしく口元が笑っている。
 そんな二人に臆するシンジ。
「な、何だよ二人とも……」
 わざと遅れて走っていたのだが、それに合わせて二人も下がって来たのだ。
 にへっとするケンスケ。
「これやるよ」
 短パンのポケットから写真を取り出す。
「なにこれ……うわ!」
 シンジはそれを見て慌てふためいた。
 今朝の登校時を収めたものだった。シンジがレイと手を繋いでいる。
「こここここ、こんなのばらまかないでよ。もう!」
 客観的に見るとかなり恥ずかしいらしい。
「遅いって、一番人の多い時間帯だったんだぜ?」
「そや、あれじゃわしらがいくらフォローしてもどうにもならんわ」
 やっぱり人出の多い時を狙って登校して来てたのか……。
 ケンスケはともかく、いつも遅刻寸前のトウジまでが何故知っている?
 シンジはジト目で二人を見た。
「いや〜、しかしセンセもやるもんやで、なあ?」
「ああ、綾波の胸」
「綾波の太股」
「「綾波のふくらはぎぃ!」」
「うわ!」
 二人に足を引っ掛けられた。
 すっ転び、肘をすりむく。
「なにすんだよ。もう!」
「すまんなシンジ、わしはお前をいじめなあかんのや!」
「なんだよそれ……」
 シンジは立ち上がり、砂を払う。
「シンジィ、お前ってばつくづく平和な奴だよなぁ?」
 そんなシンジに同情する。
「なに言ってんだよ。二人とも?」
 シンジはキョトンとするだけだ。
「ええか? シンジ……」
 ポンと肩を叩くトウジ。
「綾波はあれでも結構人気があったんや」
「知ってるよ。ケンスケが写真売ってたから……」
 普通どんなに目立っても、上級生にまで顔を知られることはない。
「そや、そのせいでシンジ、お前はみなに目の敵にされとるんや」
 今始めて知った驚愕の事実。
「ええ!? そうなの?」
「そうさ、昨日のは衝撃的だったからなぁ……」
 それはプールでいちゃついていた事を指しているのだ。
「そ、そんな、あれは僕のせいじゃないのに……」
 シンジは立ち止まり、プールの方に振り返ってしまう。
「お? なんや綾波ばっかり見ようとしおって」
「うらやましいよ」
 ふっと人生の影に入る二人。
 しかしシンジも同様に影を落としていた。
「……そんなんじゃないよ」
 どんどん憂いを帯びてくシンジの表情。
「なんや?」
 それをトウジは怪訝に思う。
「うん……ただぼくは、綾波のことなにも知らないなぁと思って……」
 シンジはじいっとプールサイドを探して見たが、レイの姿はどこにも見えない。
 その頃プールサイドでは、ぽかんとしている女の子達が居た。
「……綾波さんってさ?」
「ん?」
「どうして犬かきなのかしら?」
 皆が首を傾げている中、レイはバシャバシャと水をかいて泳いでいる。
「まあとにかくそう言うわけやから……」
 トウジは勝手にまとめにかかった。
「俺達がいじめておけば、他の連中はいじめにくくなるだろう?」
「そうなの?」
「そや! これは決して羨ましいからっちゅう私怨やあらへん!」
「あくまで友情なんだからな?」
 がしっと抱き合うトウジとケンスケ。
「わしらは心を鬼にせなあかんのや!」
「これもシンジのため、俺達の絆がさせるんだよ。な? トウジ」
 その姿はどうみても結託している者同士の臭い演技なわけで……。
「ケンスケ! ワシらはほんまにええ親友やのぉ……」
 絶対遊んでるだけだな……。
 シンジは全部を信用していなかった。
 あ、でも、みんながいじめに来るってのは本当かもな……。
 シンジはどうしようかと悩み始めた。
 ……そっか、綾波の側に居ればいいんだ。
 シンジにしては名案だった。
 綾波の見てるとこで、なにかされるって事はないんだろうし……。
 しかしシンジは気付いていなかった。
 トウジ、これ以上いちゃつくようなら……。
 おお! 三バカの鉄則、分からせてやろうやないか?
「「ニヤリ」」
 ということに当然なってしまうのだ。
 ピ────!
 先生が笛でみなを呼び集めている。
 お昼休みまであと5分。
 今日のお弁当はレイとお揃いで、しかもシンジの愛妻弁当であったとさ。



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