「逃げなきゃ……」
 シンジは鞄を抱え、裏門から逃げ出そうと校舎の陰を選んでこそこそしていた。
「ほーっほっほっほ! バカシンジィ! このあたしから逃げられと思ってんの!?」
「あ、アスカ! どうしてわかったの!?」
 正門からぐるっと回り込んで来たらしい、アスカは息を切らせていた。
「あんたバカァ? こいつらの嗅覚をもってすれば、あんたの居場所……ぐらい、……分かるわ、よ!って、マナ! あんたちょっと大人しくしてなさいよ!」
「シーンちゃーん!」
 後ろ襟を引っつかんでおしとどめてはいるのだが、さすがに犬の力には勝てないらしい。
「今のうちに……」
「ああっ! こらシンジぃ!」
 一瞬力が抜けてしまった。
シーンちゃーん!
「しまった!」
 飛び掛かっていくマナ。
 シンジはひっと身構えた。
 だがその真正面に一人の少女が立ち……もとい、四つんばいになって威嚇した。
う────、わんわんわんわんわん!
「きゃうんきゃうんきゃうん!」
「あ、綾波……」
 呆然とするシンジ。
 マナはとって返して、アスカの背後に隠れてしまった。
「ちょっとあんた何やってんのよ。なっさけないわねぇ」
 アスカの腰に抱きつくように隠れてしまう。
 不甲斐ないマナを叱咤し、アスカはレイを睨み付けた。
 すっと立ち上がるレイ。
「さ、帰りましょ、碇君……」
「あ、うん……」
 じゃあ……と言いかけたが、言えなかった。
 それ程にアスカの顔が恐かったからだ。
 ……どうして僕が、こんな目に合わなくちゃいけないんだろう?
 シンジは誰でもいいから、誰かには教えて貰いたいと願う心境に陥っていた。



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