アスカが道に迷っている頃、シンジが何をしていたかと言えば……。
「碇君、これ……」
「これって……」
 近所のスーパーでいちゃついていた。


「綾波……これってドッグフードじゃないか」
 手に持たされたのは缶詰だった。
「でも、おいしいから……」
 わがままを言うレイ。
「だめだよ。栄養が偏っちゃうし……」
 しゅんとすねかえる姿に「う……」っとなる。
 しょうがないなぁ……。
 シンジはそんな綾波に勝てなくて、ドッグフードの缶を買い物かごへと放り込んだ。
「碇君?」
 キョトンとするレイ。
「これはおやつだからね? さ、夕飯の買い物済ましちゃおうよ」
「ええ、わかったわ……」
 言葉はとてもそっけないが、瞳はとても温かかった。


 横を向くと綾波が居る……。
「なに?」
「ううん。なんでもないんだ」
「そう……」
 態度はそっけないし、表情もあんまり変わらないけど……。
 シンジは段々と、微妙な違いを見ぬけるようになって来ていた。
 はっきり態度に出てたりする時もあるけど……。
「嬉しかったな」
 シンジの呟きに、前を向いたまま目だけを向けるレイ。
 なに? そう尋ねているのがちゃんとわかった。
「うん。さっきマナが抱きついて来た時、吠えてくれたよね?」
 レイの頬が、傍目にも分かるほど赤くなった。
「なにを、言うのよ……」
「うん」
 嬉しかったな。
 シンジはもう一度くり返した。


「もう! マナの奴どこ行っちゃったのよ?」
 アスカは勘を頼りに歩いていたのだが、かなり的確な方向に進んでいた。
「あ〜、なんとか帰りつけたみたいね……」
 見覚えのあるマンションだ。
 とは言っても安っちい造りではなく、かなり上位のランクに入るだろう。
 その階段を上がる人影に目を釣り上げる。
あ────、バカシンジィ!
 ……お隣さんは、ラブ・コメディの基本でしょう(合掌)



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