「綾波ぃ、ご飯できたよぉ」
 キッチンから名前を呼ぶと、ひょこっとレイはシンジの部屋から顔を出した。
 その手に持っているのは、わんわん用のお皿だった。


「はぁ……」
 シンジは綾波の前に並んだ食器に、軽くため息をついてしまった。
 レイは全く気にしていない。
「はぁ……」
 またもため息、そこには犬皿数枚が並べられていた。
 かちゃかちゃかちゃ……。
 しかし意外な事に、レイはちゃんとお箸、それにナイフとフォークを使い分けて食べている。
「食べづらくない?」
「別に……」
 お皿の端っこは上向きに反って椀状になっている。
 そこに向かってナイフとフォークで、お肉を切り分けているのだ。
 口数は少ないのだが尻尾がバタバタと揺れている。
 それも一つの憂鬱な原因……。
 綾波、なんて格好で……。
 上はTシャツ、これはシンジのものだから良いとして、下が問題だった。
 前後逆だよ……。
 尻尾を自由にしたかったのだろう、ショートパンツを後ろ前逆に履き、チャックを開けて尻尾を出していた。
 ヤバいって……。
 綾波が通り過ぎた時、一度だけシンジは真後ろから見てしまっていた。
 背中から尻尾までが丸見え。
 その下も見えそうだったな……。
 お尻の割れ目。
 シンジは赤くなって黙り込んだ。
 いつの間にか茶碗に伸びたお箸までとまってしまっている。
「なに?」
 それを怪訝そうに感じた綾波。
「あ、え? いや……」
 シンジは言葉を濁した。
「その、ご飯、おいしく出来たかなって、それで……」
 赤くなってうつむく綾波。
「おいしいわ……」
 か、可愛い、よな……。
「ありがと……」
 シンジも同じようにうつむいてしまう。
 ドン!
 その時、隣から茶々を入れるように壁を蹴る振動が響いた。
 アスカだよなぁ?
 これがシンジの憂鬱にさせている。もう一つの理由であった。



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