さてと……。
シンジは浴槽のお湯をはり終えると、キッチンのテーブルの下を覗き込んだ。
「綾波、お風呂に入ってよ」
「嫌……」
丸まっているレイ。
「なんでだよ?」
「お風呂……嫌いだから」
「だめだよ。臭くなっちゃうだろ?」
シンジはレイの両脇の下に手を差し込むと、「よっこらしょ」っと、強引に引っ張り出した。
ほら嫌がってないで!
キャンキャンと吠える声が壁越しに聞こえて来る。
「あいつ何やってんのよ!」
アスカは壁にコップを当てて様子を探っていた。
「くすん。くすん。くすん……」
その背後で「ご飯抜き!」の札を下げたマナが、お座りの体勢で泣いている。
ほらもう、ちゃんと体洗わなきゃダメじゃないか!
か、体ですってぇ!?
シンジの言葉に、アスカの鼻息が一気に荒くなった。
ダメ、見ないで……。
何をよ!
わかってるけど、見てないと……。
ガァ────……
突然通り過ぎたトラックの音に、続きの台詞が聞こえなかった。
だぁ!
思わずコップを窓に向かって投げるアスカ。
ガシャーン!
当然のごとく窓が割れた。
はっと、自分の間抜けさに気がついてしまう。
違う! どれもこれも、あのバカのせいよ!
脱いだら洗濯カゴに入れるの! 同じ服ばっかり着てちゃダメだろ!?
でも、これしかないから……。
うわっ! ちょっと広げないでよ!
どうして? ただの下着なのに……。
「なんですってぇ!?」
レイの行動にだらしなく鼻の下を伸ばしたシンジの顔が思い浮かんでしまう。
アスカの形相に脅えるマナ。
マナは小さくなって、耳を伏せて後ずさった。
だってそれさっきまで履いてたやつ……ってうわ! ちゃんとタオル巻いてよ! 落ちたらどうすんだよ!
なぜ?
なんでって、見えたらどうするんだよ!
別にかまわないわ、だってわたしは「犬」だもの。
今は人の姿をしてるだろう!?
碇君……鬼畜なのね。
何でそうなるんだよ!
犬相手に欲情するなんて……変。
うわあああ! ぼ、ぼくは変だったんだぁ!
「くっ……う……」
顔を伏せるアスカ。
「くぅん……」
アスカの肩が震えている。「泣いてるの?」、心配げに覗き込むマナ。
「くす、そうね、そうなのね?」
アスカの口元がニヤリと笑った。
びくりと脅え上がるマナ。
「所詮はケダモノ、このあたしの敵じゃないわ!」
髪を掻き上げ胸をはる。
勝ち誇ったその一瞬に、レイの囁きが聞こえて来た。
いいけど、襲うのなら発情期にしてね?
ふんがぁああああ!
アスカは冷蔵庫を持ち上げると、少しのためらいもなく壁に向かって投げつけた。
踊るようなアスカの影の中で、マナはすくみ上がるしかないのであった。
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