すぅ、パタン……。
戸が閉じられるのと同時に、室内は暗闇の中に閉ざされた。
「碇君?」
シンジは部屋の隅、窓際にしゃがみこんでいた。
小さく体を抱きかかえている。
「なにしてるの?」
シンジは目を大きく見開き、ガラスの汚れを凝視していた。
返事が無いので、数秒してからレイはゆっくりと一歩を踏んだ。
……。
音になったかも分からないような足音に、シンジがビクリと反応した。
「綾波……」
「……碇君」
シンジの隣に座り込むレイ。
もちろん両膝を突いて足の間に腕を突いている。犬を連想させる座り方だ。
「どうしたの?」
「ごめん……」
シンジは窓の外を見た。
満月だ。
視線を戻す。
ざわり……。
レイの頬に青白い産毛が波立っていた。
それをじいっと見つめるシンジ。
「恐いの?」
レイの問いかけに首を振る。
顔が少し尖り、鼻先がやや丸くなる。
頬の部分には体毛が生え揃っていた。
これが本当の綾波?
酷く冷静な瞳で受け入れてしまっている。
「僕は、綾波を飼えなくなるかも知れない……」
「捨てるの?」
シンジは気だるそうに首を振った。
「捨てられたのは僕だ……」
心配げに体を寄せるレイ。
「かまって欲しかったんだ。僕のことを見てもらいたかったんだ。でも……」
ぺろっと、シンジの頬を舐め上げる。
「だからってあんな酷い事をして、僕は!」
シンジは顔を被って、泣き言を吐き散らし始めるのだった。
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