「シンジぃ、やったわよ!」
アスカがトンネルを開通してから二日目。
アスカはVサインをシンジに突きつけた。
「……どうでもいいんだけど」
はっとするアスカ。
「あの、見ないでよ……」
シンジはシャワーを浴びている最中であった。
「信じらんない、どういうつもりなのよ!」
「なんだよ。風呂に飛び込んで来たそっちが悪いんだろ!?」
さすがのシンジもこれには叫び返す、取り敢えず服は着ていた。
「それになんだよ。こっちはあれがいつバレて追い出されるかって冷や冷やしてるのに……」
アスカの開けた大穴を指差す。
その言葉に、アスカはふふんと鼻を鳴らした。
「……なんだよ?」
「じゃーん! これを見なさいよ?」
それはこのマンションの所有権を示す権利書であった。
「これって!?」
「そ、買い取っちゃった」
買い取るって……。
シンジはお気楽に言うその言葉が信用できなかった。
でも、多分本当だ……。
それはその自信ありげな態度からはっきりと分かる。
「でも、どうして……」
恐る恐る尋ねてみる。
「だってこのマンション、ペット禁止みたいだから」
それだけ!?
シンジはあっけらかんとしている幼馴染の態度に呆れた。
「ちゃんと契約条項も変更してきたわ、これであたしたち問題無くここで暮らしていけるわよ?」
ちょとシンジは焦ってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。問題無くって、あの穴はどうするのさ!?」
アスカはキョトンと小首を傾げた。
「そのままにしとくに決まってるじゃない」
「どうして!」
「……シンジ?」
アスカの目がすっと細まる。
「あんた。隠れていかがわしい事でもやってんの?」
シンジの顔が真っ赤になる。
「んなわけないだろう!?」
「冗談よ。なによむきになっちゃって……」
アスカはシンジの追求を軽くいなした。
「良いじゃない別に……」
「そんなわけにはいかないよ! だって困るじゃないか……これじゃあ一緒に住んでるのと同じでさ」
シンジの言葉が尻すぼみに小さくなっていく。
アスカはシンジの考えてる事を悟ってニヤリと笑んだ。
「あんた。変な事考えてない?」
うぐっと言葉に詰まってしまう。
「シンジ、あたしの部屋に入ったら死刑よ? これ決定ね」
「そんなの入るわけないだろう!? それよりそっちこそ入ってくるなよな!」
シンジ逆切れ、ムッとするアスカ。
「うっさいわね! ここはもうあたしのマンションなの! あんたに口答えする権利なんて無いんだからね!」
「あるよ! だってここは僕の部屋じゃないか!」
「あたしのものよ。あたしの! だぁれがあんたから家賃なんて取るもんですか!」
え!?
シンジは思わず固まってしまった。
「それって……どういうこと?」
「知らないわよ。バカ!」
アスカはぷいっとそっぽを向いた。
「アスカ……」
もしかして、僕の為に?
シンジはアスカが飛び込んで来た時のVサインを思い出した。
「アスカってば……」
「なによ! ……あんたなにやってんのよ? やめなさいよ!」
シンジは体を90度に折り曲げて頭を下げていた。
「やめなさいってば、どういうつもりよ!」
「だって、迷惑かけちゃったから……」
迷惑なんかじゃ、ないわよ……。
アスカはぽそっと呟いた。
「迷惑なんかじゃない……」
「でも……」
「いいのよ。あんたの為だもん」
「アスカ……」
シンジ。
見つめ合う二人。
「ありがとう、僕と綾波の家を守ってくれて」
ぶっちん!
そして一時的に、命の保証を失ってしまうシンジであった。
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