「まったく、綾波にも困るよな……」
 お風呂に浸かっているシンジ。
「ちゃんとしてもらわないと、人に見られたらどうするんだよ……」
 しかしその顔はにやけている。
「ここは一度、ちゃんと叱らないとダメだよな?」
 しかしまたも先延ばしになるのであった。


「うわん!」
 ガシガシと髪を拭きながら居間に入ったシンジは、そのひと鳴きに固まってしまった。
 これは何?
 犬。
 どうしてここに居るの?
 それは茶色の小犬であった。
 きっと太陽の下では金色に輝く事だろう。
「碇君……」
 その小犬を膝の上で抱いているレイ。
 しかもピンクのパジャマモード。
「あ、綾波……」
 レイは膝の上で、ばたばたと尻尾を振っている小犬に目を落とした。
 背中を押さえつけられて、シンジにじゃれつきたくても動けないでいる。
「子供なの……」
 レイの呟き。
「可愛い?」
 確認するような言葉。
 子供……誰の? 綾波の!?
 シンジは誰との!?っと言う目を向けた。
 え?
 レイの瞳はシンジを見ている。
 うそ!?
 小犬もどこか、シンジに期待をよせている。
 僕なの!?
 ダリダリと流れ落ちる脂汗。
 うそだ! 僕はそんなことしてない! でも時々気を失って……。
 記憶が無いというのは恐ろしい。
 そんな……そんなそんな!? だから綾波、僕になついてたの!?
 色々と、14歳にしては重過ぎる課題が山積みになる。
 って、犬じゃないか。
 シンジは開き直った。
 そうだ。犬だよ。たかが犬じゃないか、犬一匹の面倒ぐらい見られなくてどうするんだよ!
 希望の陽がさしてくる。
 と同時に問題の根本からは、ずれていく。
「綾波!」
 急に両手を取るシンジ。
 驚いて目を丸くするレイ。
「幸せにするからね!」
 真っ赤になりながらも、シンジの優しい瞳にこっくりと頷く。
 だがシンジは知らなかった。
 その小犬はアスカが拾って来たもので、レイはただ「子供だから、かまってやりたいの。良い?」と尋ねたつもりであった事を。

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