「きゃああああ!」
 バスルームからの悲鳴が聞こえた。
「何だよアスカ、また太ったとか言うわけ?」
「なんでわかるのよ?」
 何故だかシンジの部屋の風呂場を借りている。
「だって、掃除するの面倒じゃない?」
 かなり酷いアスカであった。


「それもこれもあんたが悪いのよ!」
 茶碗を片手に箸で指す。
「はいはい、おかわりは?」
「山盛りね……」
「だから太るのよ」
「うっさい!」
 飛んで来たアスカの箸をひょいっと避ける。
「でもわかるなぁ、シンちゃんのご飯おいしいんだもん」
 ぱくぱくと犬食いしているマナ。
「ま、いいけどね?」
 シンジは結構幸せそうだった。


 真夜中。
 レイはトイレから出ると、出しっぱなしになっていた体重計をちらりと見た。
 ぱた……ぱたぱたぱたぱたぱた。
 面白そうだと思ったのか? 隠れていた尻尾が寝間着の「穴」から外に出て来た。
 ピンク色のパジャマで、かなり大きめだ。
 口元を両手で隠し、黙って体重計の前に座り込む。
 前足を乗せて見る。
 ピピ。
 数字が動く。
 手を退ける。
 ピピ。
 数字が消える。
 ぱたぱたと尻尾の動きが早くなる。
 ギシ……。
 ぴぴぴぴぴ。
 体重計に乗ってみた。だが出て来た数字に首を傾げる。
「よくわからないの、わたし」
 普段計ってないだけに、数字に意味を見いだせない。
「碇君……」
 レイはシンジに尋ねてみることにした。
 とことことこっと、シンジの部屋の前に立つ。
 くんっとその鼻が匂いを嗅いだ。
「シャンプー、あの人の香り?」
 そっと戸にすき間を作って覗き込む。
「くくく、自業自得って奴よね?」
 アスカだ。暗闇の中、手にクッキーの箱をもっている。
「あんたが悪いのよ? あんまり美味しい物、作るんだから……」
 寝ているシンジの口にクッキーを差し込む。
「むぐ……」
 シンジは寝ぼけてはぐはぐと食べた。
「ぷっ、可愛いもんねぇ?」
 アスカは箱が空になるまでくり返した。
 スー、パタン。
 アスカ退場、廊下の奥に座り込んでいたレイには、暗くて気がつかなかったようだった。
 アスカが居なくなると同時に、その尻尾がパタパタと揺れ出す。
 レイの口には、ドッグフードの箱が咥えられていた。

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