「う〜、最近なんだか体が重いなぁ?」
いまだにそれが、誰かさんの策謀だとは気がつかないシンジである。
「……ねえ、テレビ変えちゃだめ?」
「嫌……」
レイは三角座りのままでテレビに噛り付いている。
やりたいのかなぁ?
テレビでは犬がフリスビーを追いかけていた。どうやら何かの大会の中継らしい。
ぱたぱたと尻尾がスカートから頭を見せて揺れている。
「ん?」
ぼうっとレイごしに、ソファーからテレビを見ていたシンジは、レイの髪に付いている黒い物に気がついた。
「なに?」
「あ、ゴミだよ……」
シンジはレイの髪からそれを取ろうとした。だがそれは動いて逃げた。
「え!?」
髪の奥へと隠れていく。
「まさか!?」
シンジはレイのつむじの辺りを指で掻き分けた。
「碇君?」
「やっぱり!」
そこにいたのは「ノミ」だった。
いい!? ちゃんと髪を洗うまで出ちゃダメだからね!
そう言い渡されたレイは、一人お風呂場で悩んでいた。
「髪、洗うのね?」
レイはどうしていいものやら悩んでいた。
「お風呂、嫌いだもの……」
いつもはシャワーを浴びるだけである。
目の前で立っている湯気。
だがシンジの剣幕から、今日はそうも言っていられない。
とりあえずは石鹸を手にしてみた。
「こう?」
髪に擦り付ける。
「……痛い」
濡らしてもいなかったので、髪に塊が付いてしまった。
「違うのね……」
石鹸を置き、今度はボトルを順番に眺めていく。
ボディーソープ。
シャンプー。
リンス。
コンディショナー。
揃っている種類は、すべてアスカの趣味による物だ。
「これね?」
ボディーソープを手につけてみる。
テレビを見て覚えていた記憶の通り、まず湯船に浸かり、頭にそれをつけてみた。
「……泡立たない」
どうやらよくある。水を張ったタライの上で、泡だらけにされている犬と言うのを実践しようとしたらしい。
不意に気がつく。
「濡らしてから使うのね?」
シャワーを浴びる。
「これでい……がぼ」
口に水が入る。
「がぼ、げほ」
泡まみれの長い前髪に目が隠れる。しかもしみる。
「?????!」
パニくった。
「ちょ、綾波、何やってんだよ!?」
心配して見に来たシンジが、レイの体を引っ張り上げる。
「……ごめんなさい」
「いいけど、それで死んじゃったらしゃれにならないよ……」
レイの両脇に手を差し込んで引き上げる。シンジは顔を赤くしながらそっぽを向いていた。
レイの柔らかな体に指が食い込んでしまう。
「はい、シャワーは手に持って使ったほうがいいよ?」
シンジはレイの手に持たせてやった。
「じゃ……あ、アスカ!?」
「あんたなにやってんのよ!」
ぎゃあっと悲鳴が上がったが、レイは気にせずに次の行程へと移行した。
「これ?」
コンディショナーを手につけてみる。
「……これも泡立たない」
洗い落とす。
「?」
だがヌルヌルが取れない。
「??」
良く洗っても、なんだかまだヌルっとしている。
「……これも変」
レイはすっくと立ち上がった。
「わからないことは、聞けばいいわ……」
そのまま脱衣所へと出て行くレイ。
「碇君……」
「綾波、ぶわぁ!」
「な、な、な、なにやってのよぉう!」
アスカによって既に血を流していたシンジは、さらにレイの裸体によって、さらに別の血を吹き出してしまったのであった。
「あんたばかぁ!?」
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