「そう、お尻にね……」
暗闇の中に浮かび上がる学生服姿の少年。
その前に、お尻を押さえながらうずくまっているのは、あの怪物だった。
「どれ、見てあげるよ」
そう言った少年に、怪物はいやいやをするような仕草をして後ずさった。
なぜだかお尻を隠している。
「何を脅えているんだい?」
微笑む少年。
「心配ないさ、僕にとっては同じだからね、どちらでも」
チュドーン!
十字架型の炎を吹き上げて自爆する怪物。
その爆炎を少年は黄金色の壁で弾いていた。そして呟く。
「……彼にここまで操を守らせた碇シンジ、会ってみたいね?」
少年は激しく誤解していた。
「はぁ……ようやく発情期も終わったみたいね?」
二人で仲良く差し向かいでお茶を飲んでいる。
「またあんなのが来たらどうしようかと思ったよ……」
「レイは?」
「マナと一緒に寝てるみたい」
居間からベランダへと抜ける辺りの日向で、レイとマナは折り重なるように寝そべっていた。
「おじ様は?」
「よくわかんないけど……綾波が恐いみたいで、帰っちゃった……」
シンジは昨日までは一緒に泊まってくれていた父親のことを思い出した。
「大丈夫か、レイ」
「パパ……」
「「ぱぱぁ!?」」
いやぁんな感じを全開にする。
「あ、綾波!? 何を言ってんだよ。綾波……」
レイはとろんとした目を向けた。
「パパ……お小遣いをくれる。遊んでくれる人……違うの?」
「父さん……」
「おじ様……」
「ち、違う、違うぞ二人とも!」
レイを抱き上げたままで弁解しても、説得力は生まれない。
「くぅん……」
レイはそんなことにも気付かずに、身をよじってシンジを求めてもがいていた。
「あれ? 綾波、散歩に行くの?」
夕食後、食器を洗っていたシンジの後ろにレイが立った。
「ええ……行きましょう?」
「うん……」
一緒に夜道を歩いていく。
綾波ってこの間まで人間離れしてたのに、発情期が過ぎたらすっかり大人しくなっちゃって……。
ぼうっとしながらついていく。
「あれ? 綾波……」
路地を歩いているうちに、レイの姿が見えなくなってしまった。
「……先に行っちゃったのかなぁ?」
いつもの散歩道だ。早く歩けば追い付くだろう。
だができなかった。
ひたひたひた……。
何かが着いて来る音がする。
振り返る。だが誰もいない。
「き、気のせいだよな?」
まさかお化けだなんて……。
前を向いて歩き出す。
ひたひたひた……。
やっぱり音がしてるよ。
すたすたすた!
ひたひたひた!
うわわわわ! 追いかけて来てるよぉ!
振り返ってはいけないと思う時ほど、つい振り返ってしまうのはどうしてだろう?
シンジは立ち止まると、そうっとゆっくり振り返った。
「お尻はいいねぇ」
ひぃいいいい!
耳元に拭きかかる生暖かい息。
繊細な指はシンジのお尻を撫で回していた。
「ななな!?」
「男女共に共通する快感を味わえる。最高だとは思わないかい? 碇シンジ君……」
へ、変質者だ!?
シンジは壁を背にして後ずさった。
「僕はカヲル、渚カヲル」
今度は前から、大事な所を撫で回された。
「カヲルと呼んでくれていいよ? シンジ君……」
「よ。呼びたくないよ。なんだよ君は!」
顎先にキスをされかけ、シンジは叫ぶ。
「冷たいね? 僕も彼女と同じだというのに……」
彼女?
ふとレイの顔が脳裏を過る。
「まさか!?」
「そう、綾波レイ、でも僕は犬じゃないよ?」
近距離で見る赤い瞳は、確かにレイと同じものだ。
「犬じゃ……ない?」
「元々人間なのさ」
「人間!?」
「そう、アダム因子、その実験台に用いられたのは、何も動物だけじゃないんだよ……」
カヲルは両腕を広げながらシンジに迫った。
「さあシンジ君……」
「な、なんだよ!?」
「僕と快楽をわけあおうじゃないか……僕にとってはどの穴でも同じことだからね? 大丈夫、産みの痛みぐらい男でも横隔膜を少しいじれば味わえることさ」
そう言う問題じゃないよぉ!
シンジは「あわわわわ」っと逃げようとしたが、既に腰が抜けている。
「おや、僕のために腰を上げてくれるのかい? うれしいよ……」
ちがうー!
シンジは四つんばいになって逃げようとしていたが、そのお尻の中心線をカヲルの指が這うようになぞった。
「痛いのは最初だけだよ? アダム因子はあらゆる生物に新たな命を授ける力を持っているからね? 僕は君と繋がるために生まれて来たのかもしれない」
くすっと言うやたらと邪欲に満ちた微笑み。
誰か助けて、助けてよぉ!
シンジのベルトを外そうと、カヲルの手が回される。
ぷつん……。
何かが切れた音を最後に、シンジの記憶は閉ざされた。
朝。
「はっ!」
飛び起きるシンジ。
「ゆめ? 夢だよな? 夢なんだよな!?」
室内を見渡す。
天井、電灯、机、レイの小屋。
何もかもがいつもの通りである。
一応お尻にも手を回してみる。
「そうだよな、夢だよな? ははは、こんな夢見るなんて、僕どうかしちゃったのかな?」
起き上がり、顔を洗うためにタオルを持って部屋を出る。
はらり……。
落ちるタオル。
「やあ、シンジ君」
「なんで……」
ごく自然と朝食を取っているカヲルが居る。
「夕べは惜しかったね?」
「お、惜しい?」
「諦め切れないって事さ」
ガブリ!
そう爽やかに決めようとしたカヲルの足に、レイが思いっきり噛付いていた。
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