そっか……僕は綾波を好きになってもいいんだ。綾波と好き合っても良いんだ!
なんだか補完されてるシンジである。
ジャー……。
目の前では洗濯機に水が注ぎ込まれていた。
「綾波ぃ、ちゃんと頭も洗うんだよぉ?」
「……尻尾まで洗ってるわ」
背後のすりガラスの向こうでは、レイがシャンプーを使ってぎこちなく体を洗っている。
シンジは一応見張っているのだ。
「尻尾、尻尾か……」
シンジは洗濯カゴに入っているレイの制服を放り込んだ。
「あっと……」
パンティーが親指に引っ掛かった。
「尻尾……」
なんとなくもう片方の親指も引っ掛けて引っ張って見る。
「穴なんて無いのに……どこから出るんだろう?」
パンパンパン……。
アスカはスリッパで手を叩きながら、いつどついてやろうかと構えていた。
「それでは、裁判を始めるわよ?」
「なんだよこれ、なにすんだよ!?」
シンジは「アスカの部屋」に拉致られていた。
「あんたバカァ? 犬相手に何欲情してんのよ!」
赤黒い十字架に張り付けにされている。
アスカは物差しでシンジの顎を持ち上げた。
「い、犬じゃないよ。綾波は犬じゃないんだよ。もうすぐ人間に……」
「だあ! 惑わされてんじゃないわよ!」
ぺしっと額を叩く。
「いったぁ……なにすんだよ!」
「あんた人の姿してれば何でも良いんでしょう!?」
「そんなことはないよ!」
「あるわよ! なによふらふらふらふらしちゃってさ? あんた人間よりペットの方がいいってわけ?」
「なんだよぉ……」
さすがにそう言われると考えてしまう。
「まあねえ、あんた鬼畜だもんねぇ? 別に犬でもいいのよねぇ?」
「そ、そんなわけ……」
「はぁ? 何か言ったぁ?」
「別に……」
つい口をつぐんでしまう。
「なぁによぉ? 言いたい事があるんなら、はっきりと言えばいいじゃない」
「……きなんだ」
「は?」
「好きなんだよ。綾波が! 別にいいじゃないか、綾波が犬でもいいじゃないか!」
「よくないわよ!」
ばん!
アスカはシンジの頭をかすめるように手を突いた。
「あ、アスカ?」
「あたし……あんたに会いたくて帰って来たのよ? あんたに言いたい事があったのに、なんで……」
「アスカ……」
泣いてるの?
シンジは動きたかったが、あいにくと縛り付けられたままである。
「こうなったらもういいわ!」
「え?」
「シンジ! 一緒に獣道に墜ちるわよ!?」
「ええ!?」
「大丈夫、優しくしたげるから……」
「な、何する気だよ!?」
「墜ちようって言うのよ? どこまでもね?」
「そ、そんなの嫌だよ。墜ちるんならアスカ一人で行っちゃってよ!」
「バカねぇ? 一人でどうするのよ?」
くすくすくす……。
シンジのズボンに手をかける。
「あ、だめ……」
チャックをゆっくりと下げていく。
「シンジ……良い香りがするわよ?」
「するわけないだろう!?」
「窮屈そう……」
「あ、やだ。やめて、出さないで……」
「ううん。たくさん出して、あ・げ・る・☆」
「うわああああああああああ!」
「し、シンジ!?」
全ては夢だった。
「はっ!? あ、アスカ!?」
叩き所が悪かったのかしら? 倒れる時、柱に頭ぶつけてたし……。
逃げようとして、シンジは風呂場へ後ずさった。
「碇君……」
ガラッと戸を開けてレイが出て来る。
今日は言いつけをちゃんと守って、バスタオルを体に巻いていた。
だが床の上を這いずるように逃げていたシンジは、真下から「そこ」を見上げてしまった。
ブシュ────……!
真っ赤なバラが一輪咲いた。
「ほんとにバカね……」
今日も冷たい、アスカであった。
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