はぁ……。
 心労がかさむこの頃。
 今日も疲れたな……。
 電気を消し、いそいそとベッドに潜り込む。
「碇君……」
「え? うわ、綾波!?」
 そこには月光の中、獣人化したレイが立っていた。


「綾波、どうしたのさ!?」
 なにも身に付けていない。
 全身を覆う青い体毛。
 胸とお腹、それに首と頬、そして尻尾の裏だけが白かった。
 服を着ていない、変身した全裸を見るのは初めてのこと。
 それどころか、じっくりと観察するのも初めてだ。
「……ブラシ」
「え?」
 すっとブラシが突き出される。
「……毛繕い、抜け毛の季節だから」
「そう……」
 シンジは思いっきり脱力する。
 ……人化してるときは毛なんて無いんだし、意味無いんじゃ。
「何か言った?」
 シンジはぶるんぶるんと首を振った。


 ベッドの上にうつぶせにさせ、シンジはその背に手を置いた。
「いくよ?」
 コクリと頷くのを確認して、ゆっくりとブラシを入れていく。
 へぇ……。
 肩口から背中、尻尾の根元へとブラシを動かす。
 毛にブラシの筋が残っていく。
「気持ちいい?」
「ええ……」
 毛の意外な肌触りの良さに感動する。
 シンジはなるべく丁寧にブラシを入れた。
「……碇君」
「え? うわ!」
 ごろんとレイは仰向けになった。
「……こっちも」
「う、うん……」
 とはいっても生唾ごっくん。
 ドキドキと高鳴る心臓に命令を下す。
 逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ!
 お腹の上から下腹へとブラシを入れる。
「……もっと下も」
 もっと下って!?
 これ以上はヤバいだろう。
 うう……なんか見えてるし。
 レイの白い毛がほんの少しだけ青みがかって月光を反射している。
 その向こうでピンク色の肌と、さらに中学生が見てはいけないものが二つの隆起の頂点にあった。
 こ、このままじゃあ!
 レイは犬らしく手と足を折りまげている。
 特に足がまずかった。半ば折って膝を立てている。
 見ちゃだめだ。見ちゃいけないんだ。でも犬だからしかたないんだよ!
 当然犬らしく足が開いてしまっている。
 シンジは目をつむり、とにかく隆起に沿ってブラシを動かした。
「……碇君」
「え!?」
 どれぐらいそうしていたのだろうか? レイが急に熱を帯びた声を出した。
「……撫でて」
 えええええ!?
 ゴロンと横になるレイ、その目は「お願い」と強く要望している。
「……わかったよ」
 シンジはレイの頭から背に向かってゆっくりと撫でてみた。
「……気持ち、いいの?」
「犬だから」
 答えになってないよなぁ。
 だがレイの表情はとてもとても幸せそうに見えてしまう。
 いいか、ま。
 シンジも一緒に横になった。
 気持ちよさそうに目を閉じるレイ。
 シンジはそのまま、寝息が聞こえるまで撫で続けていた。


 朝。
「いつまで寝てんのよバカシンジ……って、あああああー!」
 アスカの大声に起き上がる。
「休みでしょう? パンがあるから、もう少し寝かせて……」
「寝ぼけてんじゃないわよ。何やってたのよ!」
「え?」
 アスカの剣幕にシンジは気付いた。
「あ、綾波!?」
「ん……」
 レイがぼんやりとした目を開く。
「碇君」
 ぺろっとシンジの頬を舐める。
 姿は人間に戻っていた。
 当然なにも着てないわけで……。
「あ、違う、誤解!」
「どう見たって……きゃああああああああ!」
 パン!
 シンジの股間にアスカ赤面。
「エッチバカ変態、何考えてんのよ!」
「しょうがないだろう! 朝なんだから……」
 そう言いながらも股間を押さえる姿は情けない。
 レイは実に幸せそうに、シーツを奪ってくるまり直した。

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