「……おでかけ?」
レイは上目づかいに見上げた。
尻尾がぽろっとこぼれ出て、ゆっくりパタパタと揺れ始める。
「お出かけなのね?」
負けちゃダメだ。負けちゃダメだ。負けちゃダメだ……。
深呼吸をしながら、しっかりと自分に言い聞かせる。
「あのね? 綾波……」
「なに?」
曇りのない瞳に胸が傷む。
「きょ、今日はアスカとお出かけなんだ」
レイの尻尾がぴたりと止まった。
「……そう」
「あ、あ、でもね? クリスマスの買い出しなんだ綾波の好きなビフテキも一杯買い込もうと思って……」
父によって生活にゆとりが出来たらしい。
「だめかな?」
「ビフテキ……」
じゅる……。
口元から涎がつたわり落ちる。
「他にも七面鳥とか骨付き肉とかも買い込みたいし」
駄目押し。
レイの脳裏に漫画風の”あのお肉”が思い浮かぶ。
「わかったわ」
引き締められた顔、だが涎で全てが台無しだ。
「……よかった」
「なに?」
「なんでもないよ! ははっ」
ごまかし笑いで、後頭部を掻く。
「碇君……」
「な、なに?」
「早く帰って来てね?」
それはお肉が食べたいって事なの?
レイの赤い瞳に、ビフテキが映り込んでいる様な気がしてしまったシンジであった。
「アスカが来てくれて良かったよ……」
重くなりつつある買い物かごに溜め息を吐く。
「うちの穀潰しの分もあるんだし、それに……」
ちらりと周囲の視線を気にする。
可愛いわねぇ?っと、自分達を見ていくおばさん達。
「どうしたのアスカ?」
急に赤くなったので少々焦る。
「な、なんでもないわよ!」
と言って腕を組んで来るアスカに「変なの?」とぶつくさ呟く。
その鈍感さに不満が募るが、今はケンカをする時ではない。
別にシンジを取ろうと言う輩はいない。
だが自分を狙う人間は居る。
あたしはこいつのもんなんだからね!
ちょっとした自己顕示欲と誇示行為。
誇りにするのは多分アスカぐらいなものであろうが、気にはしない。
あんた達に用なんて無いのよ!
シンジが一番なんだからね!
取り敢えずは楽しい一時が過ぎていく。
……出来れば離れて欲しいんだけどなぁ。
刺すような視線に耐える。シンジの心境は完全に無視して。
そして自宅では。
「……お肉?」
マナが少し長めの舌を滴らした。
「そう、クリスマス、七面鳥、お肉がいっぱい、骨も一杯」
ジュルジュルと異音が鳴り響いている。
「聖夜、清しこの夜、乙女が汚れを許される日、ご主人様と過ごせる日」
「遊んでもらえる?」
「だめかもしれない……」
「どうして?」
「あの人が碇君を連れていくかもしれない」
「そんなの嫌ぁ!」
仰向けになってバタバタと暴れるマナ。
ほんとに犬だろうかと疑いたくなる。
「時に……僕は数に入っていないのかい?」
「あなた男だもの」
「ヨゴレ?」
「フケツなの」
「だからくびり殺すの?」
「邪魔だから……」
無表情に首を締めるレイとニヤついたまま泡を吹くカヲルの構図が実にシュールな碇家であった。
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