「ああっ! 作ったものから食べないでよ!」
 もぐもぐ。
「大丈夫よ。ペースは守っているから……」
「何のペースだよ。なんの!」
 かふかふっ。
「二日で食べ切る計算……」
「せめてパーティー始めるまで待っててよ……」
 バリバリ……。
「この七面鳥だけで、我慢するから……」
「我慢って……それメインなのにぃ」
 赤い瞳がすっと細くなる。
「……大丈夫、もう一つ予備があるわ」
「し、知ってたの?」
 ニヤリというレイの笑みに寒気を覚える。
「で、でもあれだね! アスカ遅いね?」
 いつの間にやら生えていた耳がピクッと動く。
「……なに?」
「ハンバーグ作ってくれるんだって! それにポテトとかも、綾波も食べるでしょ?」
 しかしレイはかぶりを振った。
「え? どうして……」
「玉ねぎには、溶血作用があるの……」
「?」
「犬だから玉ねぎは命取りなの」
えええええー!?
「マナ!?」
「じゃああたし死んじゃうのぉ?」
 えぐえぐと鼻をすする。
「アスカに美味しいからって一杯分けてもらってたのにぃ!」
 食い納めとばかりに貪り食う。
「だ。大丈夫だよ。死なないって!」
 無くなっちゃうよ!
 危機感が募る。
「うう、シンちゃん優しい」
「へ?」
「いいの、慰めてくれなくても」
 とか言いつつにじり寄る。
「自分の命だもん。最近辛かったの、だから分かるの」
 ごほごほと唐突にわざとらしく咳をする。
「マナ……」
「シンちゃん。お願い……」
 よよよと崩れる。
「死ぬ前に、想い出が欲しいの」
「想い出って……」
「シンちゃあん!」
「うわあああああ!」
なにやってんのよぉ!
 くわぁん!っと素晴らしいフライパンの音。
「いったぁい!」
「今度は鼻を陥没させるわよ! あんたも! なに目ぇ閉じてんのよ!」
「お母さん。僕は大人になります……って、え?」
「ったく、変な病気でも貰ったらどうすんの!」
「ひどぉい、そんなのないもん!」
「あんたバカァ? 犬猫なんてエイズとかたんまり持ってんのよ? 潜伏期間中に死んじゃうから分かんないんだけど……狂犬病も恐いし、下手なことすんじゃないの!」
「……あたし、ただの犬じゃないから大丈夫だもん」
「ええ……ちゃんと研究所でチェックは受けたから」
「あ、そうなんだ?」
「だから後は待つだけなの」
「……なにをよ?」
「発情……」
「わーわーわー! ほら! あとは運ぶだけだから手伝ってよ!」
 必死に護魔化しにかかるシンジ。
「あ、そう言えばカヲル君どうしたんだろ?」
 ふと姿の見えない居候のことを思い出す。
「あんなの居なくてもいいわよ」
「……邪魔者は消したわ」
「消したって……」
 キョトンとするアスカ。
「アパート裏の桜の木の下は掘り起こさないでね?」
「あんたって……目的のためには手段を選ばないわね?」
「例え何があっても一メートル半は掘り起こさないで、そうすれば……」
「なによ?」
「来年には、きっと血の様な赤い桜が咲くはずだから」
 クスクスと笑いを漏らすレイに、マナでさえも脅えて毛を逆立たせるのだった。

[BACK][TOP][NEXT]