キョトンとするシンジに猛烈な怒気を膨らませる。
「何考えてんのよぉ!」
 頬をつねって思い切り引っ張る。
「痛いって! だってそんな話、したこと無いじゃないか……」
 すねてはいるが、嬉しそう。
「ぼく女の子で話した事があるのって、綾波でしょ? マナでしょ? 人間じゃ洞木さんとアスカぐらいだもん……」
「で、この間の映画もあたしを誘ったってわけ?」
「だって他に誰もいないし……」
 不安げな陰が落ち始める。
「アスカも……僕を捨てちゃうの?」
 ちょっと潤んだ瞳が凶悪的だ。
「そんなことするわけないでしょう?」
 そんな顔しないでよ!
「だって……アスカってすぐつまらないって顔するんだもん」
 いじけてうつぶせになる。
「お金無かったからゲームセンターにも行ったこと無かったし、映画だってこの間が初めてだったんだ……」
「え?」
「アスカのこと……言えないよね? テレビで覚えた通りにしたんだ。腕組んだり、ハンカチ渡したり」
「シンジ……」
「すっごく緊張したんだぁ、恥ずかしくって、僕らしくないし、アスカ言ってたよね?」
「なによ?」
「バカな奴に、興味はないって」
「ええ……」
 ゴロゴロと転がり、シンジは膝を転がり落ちる。
「僕ってバカだよねぇ……頭は悪いし、背は低いし、暗いし、テレビの真似しか出来ないし」
「そんなことないわよ……」
「でもね? ほんとに嬉しかったんだ……アスカって可愛いし、奇麗だし」
な、なによ急に……
「ごめんね? 迷惑だって分かってるんだぁ……でも寂しいのは嫌なんだもん」
 アスカはぬるくなったシャンパンを口に運んだ。
「バカねぇ……あんた何も分かってないじゃない」
「うん……バカだもん」
 ケラケラと笑う。
「あたし、あんたがいるから帰って来たのよ?」
「でもがっかりしたでしょ?」
「そうねぇ……」
 アスカも笑う。
「変な犬引っ張り込んでるし、でもあんまり変わってなくてほっとしたわ?」
「そうなの?」
「……だって明るくなってたら、あたしが帰って来ても意味ないじゃない?」
 コップを置き、アスカもゴロンと横になる。
 当然シンジの横に並んで。
「……あんた酔ってるでしょ?」
「うん。酔ってるよぉ〜〜〜」
 変に明るい。
「僕ねぇ?」
「なによ?」
「アスカが好きぃ」
 目を丸くする。
「後ねぇ、綾波もマナもみんな好きぃ」
 がっくりと肩が落ちる。
「あのねぇ……」
「でもアスカすぐに引っ越ししちゃったからぁ」
「シンジ?」
「マナを大事にしたんだけどぉ」
「あんたなに……」
「やっぱり嫌われちゃってぇ」
 見ればシンジは泣いている。
「だから僕良い子になるの」
「はん?」
「良い子になるから、一人にしないで」
「しないわよ……」
「みんなでお出かけして、みんなでお祝いして」
「うん?」
「独りで待ってるの、嫌なんだぁ……」
「独り?」
「おじさんもおばさんも居ないんだ……」
「ちょっとシンジ!」
「アスカもマナもいないんだ」
「あんたおかしいわよ!?」
 目もうつろだ。
「クリスマスは一人なんだ……外はみんな一緒なんだ。テレビもみんな一緒なんだ」
「シンジってば!」
「ご飯は冷たいの、ジュースもないの、どこでも同じ……一人なら同じ」
「……だからここに居るわけ?」
「うん……」
「引っ越したの?」
「一人暮らしの方が気楽でしょうって、捨てられたんだぁ」
 またけらけらと笑い出す。
「でもわかるもん。僕と居るより楽しいことって一杯あるから」
 だから僕はお家で待つの。
 犬と同じに。
「散らかさないし、文句も言わないし、じゃれつかないの」
 自分から。
「でもねぇ? アスカがいるから嬉しくって」
 はしゃいじゃって。
「じゃれついて」
 でも。
「邪魔なら言ってね?」
 勘違いしないから。
「バカ……」
 ほんとにバカなんだから……。
 体をすり寄せ、抱きしめる。
 あれのせいよね? 絶対……。
 沢山のメール。
 シンジには来ないクリスマスのお誘い。
 アスカとの違い。
 人に好かれているかどうかと言うこと。
「ほんとは……ちょっと恐いんだ」
「ん?」
「アスカとね? クリスマスに街なんて歩いても……」
 恋人同士には見てもらえない。
「でもお情けでもいいんだぁ」
 一人じゃないなら。
「明日はね……明日は……」
 続きの言葉を待っていると、くぅ、すぅと大きめの鼻息が聞こえ始めた。
「寝ちゃった?」
 シンジの寝顔を確認。
「ほんとにもぉ……」
 腕を引っ張り、それを巻き付けるように眠り直す。
 シンジの腕まくらぁ☆
 そのうえ明日はそのままデートだ。
 が、しかし二人の世界に入っていたアスカは、何故にレイが邪魔しに来なかったのか気付かなかった。


 翌日。
なんであんた達がここに居るのよ!
 ビシッと指差す。
「なんでて、なぁ?」
「そうそう、クリスマスを楽しくみんなでって」
「ごめんね? アスカ……」
 以下本音。
 シンジのあほが。
 抜け駆けは許さん。
 だって委員長としてそんな不潔な事……。
「いいじゃない、ほらアスカ好きだよね? ベークドポテトパイ」
「わぁおいしそうって、ごまかされるかぁー!
「別にそういうわけじゃ」
「じゃあなんでそんなに嬉しそうなのよ!」
「え?」
「あんたあたしと二人っきりより、おまけ付きの方が良いってわけぇ!?」
 やっぱりと言う目をするおまけ達。
「違うよぉ」
 だって楽しくていいじゃないか。
 怒られながらもニコニコとしている。
 ……ちなみにクリスマス情報のリーク元は。
「お肉がいっぱい、お腹も一杯……」
「発情期ずれちゃったもんねぇ?」
「パーティは続くの」
「アスカ遊んでぇ!」
 というわけで、それぞれに胸とお腹にいっぱいにしていたのだった。

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