「と、いうわけでシンジ! 今日からあたしが勉強見てやるからありがたく感謝しなさい!」
「……そこはかとなく日本語が変だよ」
 家でぐらいはのんびりしたいんだけどなぁと思ってしまっているシンジである。
「なによぉ! モンクあるわけ!?」
「っていうかさ……僕、そんなに悪いっていうほど成績悪くないし……」
「はぁ!? 悪くない〜?」
 アンタの場合はね! っと指を差す。
「平々凡々っていうのよ!」
「はぁ……」
「あんたもたまには主役になってみたいとか思わないわけ!?」
「思わないって、ふつう」
「はぁ……つまんない人生生きてるわねぇ」
「ほっといてよ」
「ま……まあ? アタシの人生的にはあんたは主人公だからいいんだけどね!」
「……なんでそうなるの?」
「冴えない主人公を陰で支える美少女……これよっ、これ!」
「それって……」
 自分に酔ってるだけなんじゃと口にすると、倍以上に言い返されてしまいそうでシンジはやめることにした。
「で……」
 その恰好はなに? とシンジは目で問いかけた。
 赤のスーツに端の尖った黒縁眼鏡と教鞭。
 家庭教師と言うよりも怖い女教師といった風情である。
「アンタばかぁ? これってば日本伝統の古来から伝わる由緒正しい……なんだっけ?」
「知らないよ……」
「漫才はいつまで続くの?」
「漫才じゃない!」
「くすくすくす……ではコミックショー?」
「でもなーい!」
 じゃあコントなのねというところで落ち着いた。
「大体ねぇ!」
 ばんばんと出席簿でレイの頭を叩くアスカである。
「こ・の・アタシがよ!? ついでとはいえアンタの面倒も見てあげようってんだから、ちょっとは感謝したらどうだってのよ!」
「頼んでないのに……」
「なんか言ったぁ!?」
「別に……」
 ふいっとそっぽを向くレイであるが、尻尾が正直だった。
(怖いんだな……)
 ぱんぱんにふくれている。
「ほんとにもぉ……」
 アスカは呆れた目をしてシンジを見やった。
「いい? シンジ」
「なに?」
「あんたはバカだけど救いようのないバカじゃあないわ」
「ヒドイや……」
「でもね? 飼い犬は飼い主に似るもんなのよ! あんたがシャキッとしないから、そいつも調子に乗ってどんどんバカになっていくのよ!」
「そ、そういうもんなの?」
「このくらいの反応をしておけばいいだろうってね? 見透かしてくるのよ! だから……なにやってんの!」
 ──キャウーン!
 飛んできた出席簿の角にマナは泣いた。
「ささった。ささったって!」
「人の話も聞かずにドックフードがっついてんじゃない!」
「だってアスカの話って長いんだもん」
「なにか言ったぁ!?」
「言いません! はい!」
「素直になるくらいなら最初から反抗するな!」
 そんなやり取りにシンジは思った。
(なるほど……)
 アスカの性格を見透かしているからこそ、こうしてボケ役ができるのだなぁと感心する。
(僕と綾波もこんな風になれるんだろうか?)
 でもトウジとケンスケみたいな相方関係は嫌だなぁとふさぎ込む。
(…………ふっ)
 だが自分たちはこの二人を超えているとほくそ笑んだレイもレイで、レイだった。

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