──そんなこんなで一週間。
「犬なのね……もう」
「突発的にわけわかんないよ」
「わたしは犬、碇君の犬」
「なにを今更なんだよ」
「ご主人様を辱めないように尽くすのね」
「わけわかんないよ」
「わたしは碇君の犬なのに」
 くやしげに。
「どうしてわたし、あの人の命令を聞いてるの?」
 ……手元の参考書に、脂汗を流すレイだった。


「きゅーけーい」
 はぁっとつっぷすシンジである。
 レイはその横にぐでっと転がっている。
 二人の前ではアスカが次の授業の準備を喜々として行っている。
 くっくっとシンジのシャツをひいたのはレイだった。
「なに?」
 レイは無言でじっと見上げた。
「散歩? だめだよ。今逃げたらまた」
 ぶるぶると震え上がる。
 この間、無視して部屋に戻ったら殴られたのだ。
「碇君は……」
「え?」
「わたしのご主人様なのに」
「なにさ?」
「ご主人様なのにどうして調教されてるの?」
「うっ」
「それではヒエラルキーが保たれないわ」
「……難しい言葉知ってるんだね」
「だからここは思い切って主張するべきだと思うの」
「でも痛いのも怖いのも嫌なんだよ」
「碇君……逃げちゃだめよ。なによりも自分から」
「じゃあ綾波から言ってよ」
「……ファイトよ。碇君」
「ずるいやそんなの」
「でも……」
「なんだよ?」
 レイはひっくり返って見せた。
「お日様に当たらないと、毛がべたつくの……」
「……それで?」
「寝心地が悪くなるの」
「はい?」
「碇君の好きなふかふかの……」
 枕じゃなくなるの……と言いかけて、レイは二人の間でふんふんと頷きつつメモを取っているマナの存在に気が付いた。
「なにをしているの?」
「スパイ活動」
「そのメモはどうするの?」
「アスカに上げると骨付きチキンがもらえるの」
「そう……よかったわね」
「うん!」
「まさにアスカの犬ね」
「えー? ちがうよぉ、だからあたしはシンちゃんの犬よー」
「でも今のあなたはアスカに使われるだけの犬だわ」
「うう……それをいわれると」
「目の前のごちそうに釣られるなんて、バカ犬ね」
 くすくすと笑う。
「アスカにお似合い」
「ほぅ?」
 ぽんぽんと何かを叩く音がした。
 それは丸めた本を手に打ち当てている音だった。
「誰と誰がお似合いだってぇ!?」
 スパァン!キャウン!
「あんたもご主人様がバカにされないような、立派な犬になってみなさいよ!」
 ……立派な犬ってどんなのだろう?
 シンジはなにを妄想したのか? 鼻血を垂らして睨まれてしまった。

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